―― 前例がない商品を出すというのは、ソニーの得意とするところではあるんですが、どういった経緯でこの商品は生れたんでしょうか。
伊藤 これまでにない、新しい商品を生み出していきたいというのはソニーのDNAとしてあるんですけど、まず大前提として、われわれはオーディオ事業部ではなく、テレビ事業部なんです。さらにその中でも、TVペリフェラル設計課という、テレビの周辺機器を作る部署なんですね。テレビをもっと楽しむための新しいものを作って、お客さまへこれまでにない体験がご提供できないかということを考えるところです。
テレビの画面はどんどんきれいになってきています。薄型になったり壁掛けになったりという変化はありますけど、テレビの音の聞かれ方、音の視聴スタイルというのは、大して変ってない。
さらにテレビを食い入るように一生懸命見る時代から、「ながら」で聞いたり、横でYouTubeをちょっと見たりといった具合に、視聴スタイルも変わってきています。その中で本当に「UX」、ユーザーエクスペリエンスとして、何か快適さを加えるとか、そういうものを突き詰めていくことを結構やってきました。
そんなわれわれがチームとして以前出したのが、こちらの「お手元テレビスピーカー」でした。
―― もしかして、これがアイデアの原点ですか。
伊藤 われわれがサウンドバーではなく、ヘッドフォンでもなく、ウェアラブルネックスピーカーに行きついたのは、この「お手元テレビスピーカー」があったからです。
これは耳が聞えにくくなった高齢者に向けて、テレビの音を近くで聴かせるという商品なんです。「リモコン」と「お年寄り」というターゲットを突詰めた結果、新しいテレビの音の聞き方が生れた。
これが本当に世の中に受けまして、隠れたヒット商品になりました。うちの社員が親にプレゼントして「こんなに感謝されたのは初めて」とも言ってまして、われわれは「親孝行家電」と呼んでいます。
じゃあこれをボトムアップして、お年寄り以外にもこの体験を提供するために、肩に音を乗せてみたらどんな感じだろうとやってみたら、なんか面白い音が聞える。ここから歩き回っても楽しめる、今どきの視聴スタイルに合った商品になるんじゃないか。そこがスタートです。
―― この首かけスタイルに至るまで、何かモデルとなったものってありますか?
澁谷 それが、特にないんですよね。サラウンドという発想も、ないんです。
―― 重量バランスや掛け心地など、前例がない製品ですから、ほとんどのことは実験するしかないってことですよね。
澁谷 それは本当に困りましたね。人体の3Dデータとか本当にいろいろ集めて、肩甲骨のあたりのラインとか、肩のラインとか見て、首にかけるというよりは、肩に乗せる方がいいという判断をして。ウェアラブルネックスピーカーと言っていますが、首の部分はほとんど接しておらず、重量は肩に乗る格好になっています。
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