技術商社のマクニカは2018年7月12〜13日、ユーザーイベント「Macnica Networks DAY 2018」を開催。その2日目にはJFEスチール スチール研究所 計測制御研究部 主任研究員(副部長)の茂森弘靖氏が登壇し「データサイエンスによる鉄鋼製品の品質管理の革新〜多工程リアルタイムセンシングデータの活用による価値の創出〜」をテーマに、局所回帰モデルを用いた鉄鋼製品の品質設計と品質制御により、品質向上や製造コストの削減を達成した事例を紹介した。
技術商社のマクニカは2018年7月12〜13日、ユーザーイベント「Macnica Networks DAY 2018」を開催。その2日目にはJFEスチール スチール研究所 計測制御研究部 主任研究員(副部長)の茂森弘靖氏が登壇し「データサイエンスによる鉄鋼製品の品質管理の革新〜多工程リアルタイムセンシングデータの活用による価値の創出〜」をテーマに、局所回帰モデルを用いた鉄鋼製品の設計と制御により、品質向上や製造コストの削減を達成した事例を紹介した。
鉄鋼の製造プロセスは、高炉で鉄鉱石を溶かし、転炉で化学成分を調節、連続鋳造設備で冷やして圧延向け半製品を製造する。その後、さまざまな工程を経て、厚板、熱延鋼板、冷延鋼板、形鋼、棒鋼など各種の鉄鋼製品が作られるという仕組みだ。顧客からは月間数万件に及ぶオーダーが入り、それらに応えた製品を製造し、顧客に届けることが求められる。
この仕組みを動かすために、製鉄所の計算機システムは階層構造になっている。現場近くにはセンサー、アクチュエータがつながったDCS(Distributed Control System)、PLC(Programmable Logic Controller)などのデジタル制御装置(レベル1)があり、主にフィードバック制御、シーケンス制御を行う。その上位にプロセス計算機(レベル2)が配置される。さらにその上には操業管理用計算機(O/C、レベル3)があり、最上位に生産業務管理用計算機(C/C、レベル4)があるという形になっている。
顧客からのオーダーはレベル4で対応。レベル3ではそのオーダーがどこの工場で、どのような状態にあるのかを管理している。プロセス計算機は各工場にあり、顧客からの要求に合う製品を作るため機械の稼働の設定値を計算する。
今回の講演では、このレベル2、3でのリアルタイムデータを集めた後に行う、フィールド制御の最適化(静的モデルケース)についての取り組みを説明した。
鉄鋼業は古くから、計算機システムが導入され自動化が進んできた業界だ。「バブル時代には大量の設備投資が行われ、自動制御が進み労働生産性が向上した。しかし、そのため実装されるモデルの数が飛躍的に増大し、モデルメンテナンスの負荷が拡大するなどの課題が生じている」(茂森氏)。
鉄鋼製品は他の金属と比べて変幻自在な素材であり、成分や熱の加え方などによりフェライト、セメンタイトなどさまざまな製品が生産できる。機械特性として柔らかいものから固いものまで、その幅は大きい。それだけに新しい素材の開発が活発に行われている。
鉄鋼製造プロセスの特徴は巨大な装置産業であり、製造プロセス特有の特殊で高価な製造設備が多数導入されてきた。そして、顧客からの注文に基づく生産が基本であり、そのため、多品種・小ロット生産へ対応可能な仕組みとなっている。製造設備の制約、製品品質など諸条件を考慮するため、製品完成までに多くの工場やプロセスを経由する。また、新商品開発、プロセス開発が活発である。製造は40年ほど前から、計算機による自動制御が導入され、多数の制御モデルが存在しており、ある意味でIoT(モノのインターネット)を推進しやすい環境にあるといえる。
鉄鋼製品の品質指標には材質、寸法(厚み、幅、長さなど)、形状(板クラウン、平たん度、平面形状など)、表面品質(粗度、疵)、内部品質などがある。この中で最も重要な指標が材質であり、強度(引張強度、降伏点、伸びなど)、靭性(吸収ネルギー、遷移温度など)、磁気特性(鉄損など)の細部に分かれている。
製品製造に向けては顧客からの検討依頼があり、それを受けるかどうかついては、受注量や納期、コストを加味して受注可否を判断し、顧客に回答する。実際にオーダーとして入ってくれば、設備をどのように稼働させるか、コストを考えて決める。それに基づいて製造段階で品質制御が行われる。
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