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オープンソースと量産の間にあるギャップ、自動車メーカー5社が協力して埋めるAutomotive Linux Summit 2018レポート(1/2 ページ)

車載インフォテインメントシステム(IVI)をレゴブロックのように組み合わせながら開発できたら――。Linuxベースの車載情報機器関連のオープンソースプロジェクトAutomotive Grade Linux(AGL)が開発者向けイベント「Automotive Linux Summit」を開催。3日目の基調講演では、マツダの後藤誠二氏が、自動車メーカー5社で共同開発している”IVIのためのオープンハードウェア”について紹介した。

» 2018年06月29日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 車載インフォテインメントシステム(IVI)をレゴブロックのように組み合わせながら開発できたら――。Linuxベースの車載情報機器関連のオープンソースプロジェクトAutomotive Grade Linux(AGL)が開発者向けイベント「Automotive Linux Summit」(2018年6月20〜22日、東京コンファレンスセンター・有明)を開催した。

 3日目の基調講演では、マツダ IVI Advanced Development マネージャーの後藤誠二氏が、自動車メーカー5社で共同開発している”IVIのためのオープンハードウェア”について紹介。スズキの原木俊壽氏やスバルの角田信次氏も登壇し、自動車メーカー、ティア1サプライヤー、半導体メーカーが協力する重要性を語った。

開発コストは増加するが決して譲れない、「IVIのバリエーション」

 IVIは、スマートフォンとの連携や車外との通信などさまざまな新機能を取り入れることが求められており、車種ごとにさまざまなシステムのバリエーションが必要になる。そのため、自動車メーカーだけでなくティア1サプライヤーにとっても開発コストが増大している。

マツダの後藤誠二氏(クリックして拡大)

 「自動車メーカーには独自の仕様があり、各社ともバラバラだ。ティア1サプライヤーは、複数の異なる仕様を受けてIVIを開発しなければならない。しかし、最近は開発コストの増加が著しく、ほとんどのプロジェクトが炎上している。AGLでは、IVIの非競争領域で協力して、このコスト増加を抑えたいと考えている」とマツダの後藤氏は活動の背景に触れた。これを受け、自動車メーカーが集まってコラボレーションする組織として、AGLでは「レファレンスハードシステムアーキテクチャエキスパートグループ」を結成。マツダ、スズキ、スバルの他、トヨタ自動車とホンダの5社で活動している。

 IVIには、オープンソースソフトウェアを使うだけでは解決できない課題があった。AGLではレファレンスボードとしてさまざまな半導体メーカーの製品を使うことができるが、実際に量産するIVIはこのレファレンスボードよりも複雑さが増す。そのため、AGLのコミュニティーでの開発と製品開発のギャップが生まれ、オープンソースソフトウェアのエコシステムが発展するのを阻害しているのだという。後藤氏は「レファレンスハードウェアでギャップを埋めることが必要だ」と説明した。

量産とAGLのコミュニティーでの開発にはギャップがある(クリックして拡大) 出典:AGL

 課題はもう1つある。コミュニティーで開発したオープンソースソフトウェアが量産品に生かされ、製品開発時に改良されたソフトウェアがコミュニティーにフィードバックされることが、活動の理想形だ。しかし、自動車メーカーごとに仕様が異なり、量産品にもさまざまなバリエーションがあるため、この理想を実現することが難しい。

 「自動車メーカーにはさまざまな車種があり、車格を問わず同じIVIにすることはできない。IVIの多様化はどうしても必要だ。しかし、これが自動車の組み込みソフトウェアの開発費を押し上げている要因でもある。そこで、参加メンバーの自動車メーカーは自社の要求仕様を出し合って分析し、各社の要件をサポートできるレファレンスハードウェアのアーキテクチャを決めた」(後藤氏)

IVIの要件を分析すると、各社に共通する機能と、バリエーションを持たせるために自由度が必要な領域があることが分かったという(クリックして拡大) 出典:AGL

2DINサイズのオープンハードウェアへ、中身はレゴブロック

 そのアーキテクチャは、自動車メーカー各社に共通する機能に向けて同じハードウェア構成にした「メインボード」と、IVIの周辺機能の自由度やバリエーションを保つために異なるハードウェアを使用できる「拡張ボード」から成る。メインボードはハードウェア構成のみ共通で、CPUの処理速度やメモリ容量は必要に応じて変更できる。

 2017年10月には、これをAGLのレファレンスハードウェアの仕様として発行。後藤氏は、メインボード単体でも十分にIVI開発が可能だと述べた。また、IVIのバリエーションを実現するため、メインボードを別のSoC(System on Chip)に交換したり、必要なパフォーマンスのレベルに合わせて拡張ボードを交換できるインタフェースとする。これをレファレンスハードウェアのファーストステップと位置付けている。

各社に共通の機能をメインボードに、バリエーションのために必要な機能は拡張ボードに置く(左)。ボードは交換可能にする(右)(クリックして拡大) 出典:AGL

 現在、次のレファレンスハードウェアの仕様の議論を進めており、自動車メーカー5社のグループにパナソニックが参加している。セカンドステップとなるレファレンスハードウェアは、量産のIVIに近づけるため実際の車両に搭載可能な2DINサイズにする。

 また、ハードウェアのアーキテクチャは、メインボードと拡張ボードの2種類の構成から、4つのボードに機能を分割して配置する構成に変更する。レゴブロックのように、“交換可能”なボードをさまざまに組み替えてシステムを構成できるようにしていく。2019年1月以降にセカンドステップのレファレンスハードウェアに移行する計画だ。

次のレファレンスハードウェアは実車に搭載可能な2DINサイズで、ボード交換の自由度をさらに高める(クリックして拡大) 出典:AGL
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