デジタルツインを実現するCAEの真価

メッシュ作成が不要の国産エンジン解析ツール、熱効率50%を目指すCAEイベントリポート(1/2 ページ)

乗用車用内燃機関の熱効率50%という目標の達成に向け、政府プロジェクト内において、エンジン燃焼解析ソフトウェア「HINOCA」の開発が進められている。現在は燃焼解析のボトルネックとされている、メッシュ作成時間の大幅短縮に成功している。

» 2017年03月21日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 自動車技術会によるJSAEシンポジウム「モータースポーツ技術と文化―進化し続ける開発手法の最前線―」が2017年3月1日に開催された。その中で宇宙航空研究開発機構(JAXA)の溝渕泰寛氏が登壇し、エンジン筒内解析ソフトウェア「HINOCA」の概要や開発状況などを報告した。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の溝渕泰寛氏(出典:自動車技術会)

 HINOCAは、2014年度にスタートした政府主導のプロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のテーマの1つである「革新的燃焼技術」において開発中のソフトウェアである。SIPは省庁の垣根を越えて最先端の基礎研究を支援するもので、現在は革新的燃焼技術を含む11のテーマにおいて研究が行われている。本テーマでは、現在40%程度となっている乗用車用内燃機関の最大熱効率を50%に引き上げるという具体的な数値目標を掲げている。併せて、内燃機関の二酸化炭素排出量を、2011年に対して30%削減するという目標も設定している。これらの高い数値目標を達成するためには、従来の経験の蓄積に加えてHINOCAのようなシミュレーション技術が重要になると考えられる。

革新的燃料技術プログラムでは、世界をリードするクリーンかつ経済的な内燃機関技術の開発を目指す。(出典:自動車技術会)

 HINOCAは複数の研究機関が協力して開発する体制を取っている。移動体や圧縮性流体に対応する流体解析ソフトウェアのコア部分についてはJAXAが担当し、その上に各サブモデルが搭載される。噴霧・蒸発モデルについては海上技術安全研究所および北海道大学、点火モデルは神戸大学、火炎伝播(でんぱ)モデルは早稲田大学、壁面熱流束モデルは広島大学が担当する。

「使えるCAE」の条件を議論

 「実用的な自動車の燃焼CAEはどんなものか」と意見を交わす中で、およそ3つの条件が浮かび上がってきたという。第1に圧縮性を考慮できること、第2にサイクル変動の評価ができること、そして第3に最新のサブモデルを搭載できるプラットフォームであることだ。狭い部分で高圧かつ高速になることによって発生する遷音速流れやチョーク現象、衝撃波などは、圧縮性流体でなければ解析できない。従来のソフトウェアは、計算時間短縮の視点から疑似的な圧縮性流体解析となっているものが多かった。また従来のソフトウェアでは時間平均的な解析を行うためサイクル変動の評価が難しい。そのため点火のタイミングや当量比などの設計マージンを大きく取らざるを得なかった。衝撃波など圧縮性流体については、JAXAが航空宇宙分野で数十年の間取り組んできた分野であり、H3ロケットエンジンの燃焼流などの実績もあることなど、さまざまな技術を開発に生かせるという。

 他に自動車業界からの要望として、ソフトウェアの中身が見え、産学でプログラムソースレベルの共有ができることが挙げられた。現在ほとんどの市販CAEは外国製で、プログラムの中身を直接触ったりする機会が少なく、CAE技術の人材育成をより促したいとの考えによる。

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