かつて、冬の季節には、上を見ても灰色、左右正面を見ても灰色、下を見ても白か灰色というモノトーンの世界となってしまう地域で過ごしてきた。時折青空がのぞいた時には、急に気分が晴れるのを感じたものだった。しかし、その地域を離れ、青空が日常になってしまったことで、そのありがたみに対する感度は鈍ってしまったようにも思う。「当たり前に存在するもの」のありがたみは、意識しなければなかなか認識できない。
AUTOSARのありがたみを理解するには、まず、既存の開発の仕方やそれぞれの立場の役割、プロセスなどを含む資産のありがたみを棚卸しし、再認識しなければならないのかもしれない。
実は、本連載用に書き溜めた文章は、公開分の数倍にもなる。そしてその多くは、一見見過ごされがちな「ありがたみ」の整理を試みたものである。いつかは、何らかの形で整理し発表する機会を持ちたいと思っているが、個別のご相談の中でご紹介できるものも出てくると思うので、ぜひ、お気軽にお問い合わせいただきたい。
なお、筆者は「広く浅く」AUTOSARを知っているだけでしかない。一種の汎用品的な存在だともいえる。そもそも、いくら多くの経験や広い知見を持つ人物がいたとしても、それぞれの現場において最終的にもっとも高い/深い所にたどり着けるのは、実際に運用する現場を持つ皆さまだ。ソフトウェアなどで汎用性がいくら高くとも、個別の状況に特化させたものには太刀打ちできないのと同じだ(汎用性と個別状況でのパフォーマンスのトレードオフ)。しかし、最初の立ち上がりを加速するために「汎用品」を早めご利用いただく(早めに筆者のような立場の人々に直接ご相談いただく)ことで、「聞けば得られること」を得ることができる。もちろん、そこから先は、「まずは、やってみる/やらせてみる」ということが重要であるし、さらに先には、個別の運用・活用のための最適化も待っている。それぞれの立場でできることとできないこと、得意なことと苦手なことを見極めて、うまく進めていただきたい。
AUTOSARの導入は、決して、担当や現場レベルだけで済ませることができる問題ではない。「ここまでやれば、AUTOSAR導入はおしまい」という分かりやすいラインがあるものでもない。「使わなくなるまで運用し続けていくもの」、つまり、「運用の終了=導入の終了」と考える方が適切であろう。「維持/運用」こそが重要なのだ。
もちろん、これはAUTOSARに限った話ではなく、安全やセキュリティ対応においても同じだ。前回の第8回でご紹介した課題についても、最近開催したセミナーの受講者アンケートやSNSなどを通じて「AUTOSARだけの話ではないぞ」というコメントやご指摘を頂戴した。EnablerであるAUTOSARの導入は、それを通じてさまざまの側面での共通課題を乗り越えようとすることも意味するのだ。このように、AUTOSARの導入は、それ単独での成功を議論するようなものではなく、他のトピックも含めた大きな視点での成功のために取り組むべき中長期的な経営課題であることをあらためて強調し、本連載を締めくくりたい。
最後に、ご意見やアドバイスを下さった多くの方々に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
(連載完)
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