SAPジャパンは、クラウド型の車両情報分析プラットフォーム「SAP Vehicle Insights(ビークルインサイト)」と自動車関連のクラウドサービスを提供したい企業同士を橋渡しする「SAP Vehicle Network(ビークルネットワーク)」を日本市場向けに提供する。国内のバス事業者とリアルタイムな運行管理システムを使った実証実験も始める。
SAPジャパンは2016年3月23日、東京都内で記者説明会を開き、クラウド型の車両情報分析プラットフォーム「SAP Vehicle Insights(ビークルインサイト)」を日本市場で提供すると発表した。ビークルインサイトは、OBD IIインタフェースやスマートフォンなどを通じて取得したリアルタイムな車両の情報をクラウド上に収集し、事故防止やサービスの充実などで利用できるようにするもの。SAPジャパンはビークルインサイトを利用した実証実験にも取り組む。また、自動車関連のクラウドサービスを提供したい企業同士を橋渡しする「SAP Vehicle Network(ビークルネットワーク)」も併せて2016年夏に提供を開始する。
ビークルインサイトは、SAPが提供するクラウドプラットフォーム「SAP HANA Cloud Platform(HCP)」上で稼働する。自動車に限らず、フォークリフトや農機具、自転車など幅広い乗り物を対象としている。既にビークルインサイトを提供している海外では、化学大手のBASFが使用する輸送トラックの運行効率化や、ドイツのフォークリフトメーカーのアフターサービス、農業の他、SAPの社用車の管理に使用している。こうした幅広い用途に対して、1つのプラットフォームで対応できる点を強みとしている。
記者説明会では、SAPの社用車の管理を例に車両情報の収集のきめ細かさを紹介した。同社は社用車のOBD IIインタフェースから位置情報や、車速、エンジンの回転数、燃費など最大で1万2000件のパラメータを取得できるようにしている。情報を取得する頻度は、1分間に12回程度、平均すれば5秒に1回としている。集まった車両情報はリアルタイムで確認でき、地図上の移動経路とともに時間ごとの数値の推移を見ることが可能だ。
SAPジャパンはビークルインサイトの活用を広げるため、バスの危険運転を検知してバス事業者に知らせるシステム「バス・セーフティ・ネットワーク」を開発、複数のバス事業者と実証実験を行う計画だ。2016年1月に長野県軽井沢町でスキー場に向かうバスが起こした事故を受けてから開発を始めた。SAPジャパン バイスプレジデント 自動車産業統括本部 本部長の小寺健夫氏は「HCPに用意されているさまざまなアプリケーションを活用することで、非クラウドベースでシステム開発する場合の半分以下となる1カ月半で完成させた。現在は、実証実験で協力していただくバス事業者からの情報を取得する部分を作り込む段階になっている」と語る。
バス・セーフティ・ネットワークは、バスの急な加減速や蛇行運転、ドライバーの眠気や体調不良、タイヤの空気圧などを把握し、異常時に運行管理者に自動で通知するシステム。車両情報はデジタルタコグラフ(デジタコ)やOBD IIインタフェース、スマートフォンなどから取得する。詳細な機能については実証実験を行うバス事業者と議論しながら詰めていく。
バスの危険運転はデジタコでも記録できるが、バスが車庫に戻ってからでなければ運行状況の確認ができないためリアルタイム性に欠ける。「20万〜30万円と高額なデジタコと比べて、バス・セーフティ・ネットワークであればリアルタイム性を確保できる上に、1万円程度のOBD IIインタフェース対応端末などを使える。安価な動態管理と緊急時の即時対応が可能になる」(SAPジャパン インダストリークラウド事業統括本部 コネクテッドビークル事業開発 ディレクターの松尾康男氏)としている。また、日本国内だけでなく、運行管理が行き届いていない中国でも需要を見込んでいる。
SAPの強みとなるのは「リアルタイムに大量のセンサー情報を処理できる点だ。100〜1万台の車両まで対応できるスケーラビリティも特徴となる」(小寺氏)。
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