サブサーキットモデルとは、前回説明したように、
のようなモデルについて、特性を固有の回路に置き換えて表現します。
(2)の機能部品としてのモデルとしては、各種OP-AMP(オペアンプ)の例が広く知られています。ここでは、筆者の熱解析セミナーやスイッチング電源セミナーで希望者に配布している、ヒートシンクの熱抵抗解析モジュールについて簡単に説明します。これはSPICEが回路解析だけではなく、ソルバーとして幅広い可能性を持つことを示す一例です。
このモジュールは図4(a)のように、厚み(D)、幅(W)、高さ(H)、表面の輻射率(ε)、周囲温度(Ta)を回路図上で設定した任意形状の平板ヒートシンクに、発熱量を電流としてHEAT-IN端子に与え、この平板の温度上昇値をdTC端子から電圧信号として出力します。
つまり、CFDソフトと同様に、発熱物体の温度上昇値を計算することができます。
構文はリスト1に示す通りです。
①:サブサーキットの宣言
②:サブサーキットのモデル名
③、④:サブサーキットの入出力ピン名
⑤:1GΩの抵抗 "R_RLu" が節点Lu〜GND間に接続されている
⑥:Gデバイスが節点TX1,TX2間に接続され、必要な計算式が示されている
⑦:前の行からの続きを示す記号
その他の接続情報が続いてから、
⑧:サブサーキットの終わりをしめす語(冒頭の“.SUBCKT”に対応)
となります。
前回少し触れたように、サブサーキットモデルはこのように内部接続情報を持っていることがお分かりいただけたかと思います。
図4(a)はこのモデルの使用例を示したもので、損失を0.1W刻みで10回計算させた結果が図4(b)です。1W発熱で温度上昇54.4Kと、CFDツールと同値を示していますが、総計算時間は50msで完了しています(CFDツールなら10回計算で30分〜1時間前後かかります)。
回路解析と同じツールで、なおかつ高速に解析できるということは、設計に集中している思考を中断しないのでCFDツールと比べて大きなメリットと言えます(別ツールの操作を学ばなくて済む)。
もちろん、(3)の高精度を追求するためのサブサーキットモデルも有効な使い道です。例えば、SPICE標準のMOSFETモデルは、ボディダイオードのパラメータ項目が不足しているのでダイオード特性を十分に表現できません。Crss、Coss、Cissの電圧依存性もきちんと表現できていません。
高精度を追求するためにこれらを独立させて単体のモデルとし、本体のMOSFETに組み合わせたものが販売されていますし、ダイオードについてもTrrの波形実現やブレークダウンの様子を示す機能を追加したものも市販されています。
しかし、これらの多くは特性の再現に重きをおいているため、AREA属性が使えないことは理解しておく必要があります。
サブサーキットモデル:回路全ての部品情報を1:1で網羅したもの
マクロモデル:回路の一部を制御電圧源/電流源などに置き換え、等価的に機能を実現したもの
サブサーキットモデル:完全に部品として扱います。従って、複数個を回路図に配置でき、必要に応じてパラメータを個別に調整できます
ブロック回路図:単に回路図の一部を切り取って別のページへ移動させたものです。従って複数個を回路図に配置できません
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
いつも「SPICEの仕組みとその活用設計」をご愛読いただきありがとうございます。次回(第12回)より、EDN Japanにて連載致します。なお、次回の公開日は2014年5月30日を予定しております。
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