Linuxベースの車載情報機器向けプラットフォームである「Tizen IVI」。前編では「Moblin for IVI」から始まり、Tizen IVIに至るまでの歴史と、Tizen IVIの開発に関わるさまざまな組織について紹介した。後編では、HTML5プラットフォームへの志向を強めるTizen IVIの特徴について解説する。
独自あるいはプロプライエタリなOS上にさまざまな機能を実装してきた車載情報機器は、ナビゲーション機能の提供や音楽再生環境などによって自動車の車室内環境を便利かつ快適にしてきた。しかし、ユーザーの車室内環境への飽くなき要求はさらに増え続けている。
その要求の1つに、家庭やオフィスのようなネットワーク環境やクラウドによるユーザー体験を車室内で利用できるようにするというものがある。これを満たすには、従来のプラットフォームのネットワークスタックでは力不足と言わざるを得ない。また、要求を満たすプラットフォームを自社でゼロから開発するとなると、膨大なコストと時間が必要になる。加えて、車載情報機器は、モバイル機器と同じようにスマートフォンの破壊と創造の影響を受けているわけで、結果として自動車メーカーはこれに対抗し得る技術的革新を必要としている。
前編でその成り立ちを説明した「Tizen IVI」は、以下の2点を満たすことを目指して開発が進められている。
Tizen IVIは、これらの目標を支える技術バックボーンとしてHTML5を選択した。そこでまず、Tizen IVIのアップデートの歴史を振り返りながら、なぜHTML5に注力することになったのかを説明しよう。
Tizen IVIは、2012年に最初のバージョンとなる1.0をリリースした。「Tizen IVI 1.0」は、ネイティブアプリケーション向けUIライブラリとして「gtk3(clutter)」と「Qt」、「EFL」をサポートするとともに、HTML5アプリケーションにも対応していた。実はgtk3は、Tizen IVIとなる前の前のベースOSである「Moblin」で、Qtは前のベースOSである「MeeGo」で採用されていたUIライブラリである。EFLは、Tizenから採用された。
既存のUIライブラリが選択可能であることは、MoblinやMeeGoのころに作成した資産の再利用をアピールするためであり、MoblinやMeeGoのユーザーが離れることへの予防線に見えた。
UIライブラリ選択の自由さを売りにしていたTizen IVIだが、2013年にリリースされた最新版の「Tizen IVI 2.0」で状況が一変する。gtk3とQtをサポートから外し、アプリケーション作成に使えるUIライブラリは、EFLとHTML5のみとなった。さらに、2014年リリース予定の「Tizen IVI 3.0」ではさらに状況が変わり、「Xorg」と「Wayland」という2つのディスプレイマネージャーをサポートする体制から、Xorgを外してWaylandのみをサポートする(執筆時段階)ことになる。
Tizen IVI 3.0以降のアプリケーションは、HTML5によるWebアプリケーションか、「EFL on Wayland」によるネイティブアプリケーション、2つの作成手法によるものに絞られる。残念ながら、OSP(Open Service Platform:Tizen mobile用のネイティブフレームワーク)が入っていないため、Tizen mobile のネイティブアプリは動作しない。加えて、UNIX/LinuxのディスプレイマネージャーのデファクトスタンダードであるXorgをサポートから外したことにより、いよいよUNIXやLinuxで培ってきた過去の資産を使えない状況となる。
Waylandが選択された理由はマルチディスプレイに対応しているためだと考えられる。Tizen IVIは、前部座席向けのディスプレイでナビゲーションを表示、後部座席向けのディスプレイで映像を再生するといったマルチディスプレイを活用したユースケースを想定している。マルチディスプレイに対応するWaylandが選ばれるのは当然のことだ。
以上のように、UIライブラリの多様性を特徴としていたTizen IVIは、HTML5プラットフォームとなる方向へシフトした。UIライブラリを自由に選択できないということは、MoblinやMeeGoといった過去のユーザーを突き放すことを意味する。
過去のユーザーを突き放してまでHTML5を推進したかった。そう考えると、Tizen IVIがいかに本気でHTML5プラットフォームとなるべく挑んでいるかを実感できるだろう。
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