スマホ、タブレット端末の普及は、医療/教育/産業機器といった非民生領域でのネットワーク化の追い風になっている。無線LAN関連製品メーカーのサイレックス・テクノロジーも、この追い風に乗り、非民生領域でのビジネス成長に挑もうとしている。
医療、産業機器、教育など非PC/民生機器でのネットワーク化の機運は、「M2M」(Machine to Machine)や「IoT」(Internet of Things)といった言葉に代表されるように徐々に高まりつつある。機器と機器、モノとモノ同士を通信させ、省力化を図りながら、新たな価値を生み出そうとしている。
しかし、M2M、IoTという言葉は数年前から存在し、昨日、今日に始まった話ではない。「その割にM2M/IoTの普及が進まない」というのが関連業界の悩みだ。あらゆる機器がネットワーク対応するというM2M、IoTへの期待が大きいだけに、悩ましさはより大きく感じるかもしれない。
M2M、IoTの障壁は、コストであったり、ネットワーク対応に伴う手間であったり、技術不足であったり、と数多く考えられる。その中でも大きな障壁と言えるのが「幾つもの障壁をクリアしてまでネットワーク化する必然性がない」という点だろう。
M2M/IoTといった言葉を耳にするようになったここ数年、非民生機器分野でのネットワーク化の利点を明確に打ち出せない状況が続いた。だが、スマートフォン、タブレット端末の普及により、少し様相が変わってきた。「スマホ/タブレットと連携させたい」という明確なネットワーク化の必然性が、非民生機器領域で広がってきたためだ。
無線LAN関連機器/モジュールベンダーのサイレックス・テクノロジーも、非民生機器領域での本格的なネットワーク化の動きをとらえ、医療、産業分野でのビジネス拡大を図り、今後3年間で売上高を1.4倍に伸ばす積極的な事業戦略を掲げる。
サイレックスはもともと、プリントサーバで事業を拡大してきた。しかし2000年以降、プリンタでのネットワーク機能のコモディティ化が進み、プリントサーバ市場の規模が縮小。2004〜2005年頃からプリントサーバの技術をベースに「USBデバイスサーバ」を開発し、脱プリントサーバビジネスに着手してきた。そして、2010年度から2012年度までの過去3年間は、USBデバイスサーバーに加え、組み込み用無線LANモジュール、ディスプレイ向けの無線LANによる映像伝送システム「ネットワークディスプレイアダプタ」などAVネットワーキング製品を戦略製品として事業拡大を狙ってきた。
その結果、USBとLANをブリッジするUSBデバイスサーバは、USB搭載機器を手軽にネットワークに接続できるという点がPC周辺/OA機器分野に受け入れられ、ビジネスが拡大。国内外の大手ルータメーカー複数社にUSBデバイスサーバのコア技術「USB Virtual Link」をライセンス供与するなど、プリントサーバを凌ぐ主力製品に成長した。並行して、組み込み無線LANモジュールも着実に採用数を伸ばすなど戦略製品ビジネスの成長により、2012年度には黒字化を達成した。
サイレックスの社長を務める河野剛士氏は「一時期の危機は脱した」とし、今後の3年間に向けて、より積極的な成長戦略を打ち出す。「過去3年間は、ルーターやスキャナなどPC周辺機器、OA分野での成長だった。今後3年は、スマホ、タブレットの普及が市場拡大を後押ししている医療、教育、産業分野でのビジネスを上乗せし、戦略製品ビジネス規模を現在の2.5倍へ引き上げる」と語る。
医療分野では、既に米国で実績を積む。医療機関内で使用されるモバイル型生体計測機器での無線LANモジュールの採用など「医療機器メーカーの世界トップ12社のうち、5社が当社の製品を採用している。日本でもようやく1社での採用が決定している」(同社製品戦略室シニアプロダクトマネジャーの三浦暢彦氏)という。
教育分野向けにはネットワークディスプレイアダプタを展開する。同アダプタは、USB Virtual Link技術を応用し、Wi-Fi→USB→RGBと変換する製品である。教員の手元のタブレットPCの画面を、大型ディスプレイに無線で映し出すという用途での採用が「2013年夏から始まり、2014年に本格化する見通し」(同社)と期待を寄せる。
工業用ロボットや搬送機など産業機器分野では、組み込みモジュール、デバイスサーバの採用拡大を目指す。デバイスサーバでは、産業機器で多く使用されるシリアルインタフェース対応型のシリアルデバイスサーバを売り込む。
非民生領域でのビジネス拡大に向けた技術、製品開発も積極展開していく。各製品のベースとなる組み込み無線LANモジュールでは、2013年後半からIEEE802.11ac対応品のサンプル出荷を開始し、2014年から量産を開始する予定である。同時に、モバイル機器での採用拡大を受け、乾電池駆動に対応する低消費電力版モジュールを2013年度内に製品化する。「ソフトウェア面での工夫も行い、現行品に比べ、システムとしての消費電力は7分の1程度になる予定であり、乾電池1本で年単位の駆動も可能になる」(三浦氏)という。
そして、非民生領域での成長を実現するサイレックス独自の強みとして磨いていくのが「切れない無線の追求」である。三浦氏は「絶対に切れない無線ということはあり得ない。その中で、さまざまな技術を組み合わせ“できるだけ切らない”“切断時間を最短にする”を実現していく」という。河野氏は「国内の産業分野が海外市場に比べ、無線LANの採用に慎重になっているのは、信頼性が要求レベルに達していないこともある」として、親会社でFAシステム/工作機械メーカーの村田機械と連携を図り、国内産業市場ニーズに合致した製品/サービスの構築を急いでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.