今回は「第14回 A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール 東京大会」を観覧して感じたソムリエの世界と、ソフトウェア開発の世界の“共通点”について紹介したい。
2013年3月27〜29日の3日間、東京国際フォーラムで「第14回 A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール 東京大会」が行われました。日本での開催は、実に18年ぶりのこと。1995年に行われた前回の日本開催大会(第8回大会)では、あの田崎真也さんが世界一に輝き、大きな話題となりました。当時のこの快挙により、日本国内でも「ソムリエ」という言葉が一般に広く認知され、“第5次 ワイン・ブーム”が巻き起こりました。
ところで、皆さんは、“ソムリエの基本”をご存じでしょうか。
それは、
どんなアクシデントがあろうとも、お客さまを満足させること
です。
そのため、本大会では、ストレート(素直)な課題だけではなく、さまざまなアクシデントを想定した寝技的、変化球的な(要は意地悪な)難問・奇問が課せられます。
第14回大会では、世界54カ国から57人のトッププロたちが集結し、競技に臨みました。そんな彼らの“技”を眺めながら、筆者は、ソムリエの「サービングのプロセス」とソフトウェアの「開発プロセス」に共通点があることに気が付きました。
いつもとテイストが違いますが、今回のコラムでは、ソムリエコンクールの模様とともに、筆者が感じたことを紹介したいと思います。
大会初日、57人の選手たちは「筆記試験」「デギュスタシオン」「サービング実技」の3つをこなしました。
筆記試験の制限時間は60分。フランス語、英語、スペイン語で書かれた問題文から、母国語以外のものを選択し、その言語で解答を記述しなければなりません。2番目の課題、デギュスタシオンとは“試飲”のことです。赤ワインと白ワインの入ったグラスが1脚ずつ、各選手に配られ、それぞれのワインについて、色、清澄度、香り、味わい、ブドウの品種、生産国、生産地方、ワインの銘柄、ビンテージ(ブドウの収穫年)、価格帯、提供温度、熟成の可能性、合わせる料理を記述します。制限時間は、赤・白の両方合わせて20分です。そして、3番目のサービング実技では、テーブルに座った2人の模擬客(審査員)から注文を受けたワインを、デキャンタージュ(ワインを別のガラス容器に移し替えること)してから、客のグラスに注ぐという課題を3分以内に行わなければなりません。
残念ながら、日本代表の森覚選手は、サービング実技で時間切れとなり、準決勝の12人に残れませんでした……。スポーツの世界などでは、開催国に有利な判定・審査がなされること(ホームタウン・デシジョン)がありますが、本大会は公平そのものでした。
最終日、準決勝進出者の12人がステージに並ぶと、審査委員長の田崎真也さんから、決勝戦に進出する3人の名前が発表されました。その名前が呼ばれるたびに、10台以上ものテレビカメラがその選手を追い、そして、会場に駆け付けた4000人もの観衆から大きな拍手が送られました。18年前の東京大会では、今回の10分の1程度しか観客がおらず、テレビカメラも1台だけでした。感慨深いものがあります。
決勝戦の課題は、以下の6つです。全てをこなすのに30分以上はかかるでしょう。4000人が見つめるものすごい緊張感の中、ファイナリストたちが競技に臨みます。
決勝戦で最も注目を集めるのは、3.のサービング実技です。ソムリエの非常に華麗でエレガントな動作が見られますし、各個人の技術の差が付きやすく、配点も最も多いと思われます。
今回のサービング実技の課題として、以下の問題文が読み上げられました。
24時間前に8人の客の予約を受けた。その時、ホストは『1985年のシャトー・ラ・ガフリエール』を飲みたいと言った。6分でこのワインをサービングしてほしい。
この問題文を聞いた各ソムリエは、ステージ上の8人の客の顔ぶれや、奥のテーブルに置いてあるワインを見て、おそらく、以下のサービングのプロセスで進めればよいと考えたはずです。
上記のサービングのプロセスは、ソムリエなら誰でも思い付く、非常に常識的なプロセスです。しかし、競技会である以上、そんなに簡単にことが進むとは思えません。必ず何か“トラップ”があるはずです……。
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