最近よく耳にするようになったS&OPというコトバ。いまなぜ、日本企業に必要と言われるようになってきたのか、連載の筆者、松原先生に聞いてみよう。
連載「セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論」や「S&OPプロセス導入 現場の本音とヒント」「リサーチペーパーでひも解くS&OP」などで、解説していただいた松原恭司郎氏にお話を聞いた。
MONOist編集部(以下、編集部) 松原先生は会計がご専門ですね。会計の領域から、企業の業務プロセスであるS&OPにたどりつく経緯はどういったものだったのでしょう?
松原恭司郎氏(以下、松原) ずいぶん前の話だけれど、大学4年のときに公認会計士の二次試験に合格したんです。それで、当時の国際会計事務所(現在のあらた監査法人)に就職して。4年くらいたったころ(1977年ごろ)に、「システム監査」がスタートしだしたんですよ。その時期から、もともと独立志向が強かったこともあって、システム関連のコンサルタントとして仕事をしたんです。当時はそれを「機械化」と呼んでいました。
S&OPの基礎となるMRP(資材所要量計画)といった概念も、既に日本に入ってきたのですが、実はコンピュータシステムとして見なされて、実質的には日本の現場にその「思想」が広まることがなかった。つまり、MRPといっても、部品展開などの一部機能のつまみ食いで、生産現場ではその思想は受け入れられていなかったのです。
1982年ころのことですが、当時米国で最大手のMSA.Incというソフトウェア企業がありました。その販売代理店に、アシスト社があったのです。その社長、ビル・トッテンさんとの付き合いはそのころから始まっていますね。
会計パッケージは日本の上場企業を中心に受け入れられていったのですが、MRPのようなパッケージを日本で成功させるためには、当時、欧米の企業では一般的になってきていた統合的な生産管理のコンセプトであるMRP II(製造資源計画)の考え方をきちんと日本で広めなくてはならない、という共通の問題意識がありました。「聖書が売れるためには、キリスト教のエバンジェリストが必要だ」ということで、まずは、思想を広めるために、MRP II領域の世界的な権威であるオリバー・ワイト社の人たちを日本に招き、その著作『MRP IIは経営に役立つか』を翻訳することにしたのです。それが、1985年のことでした(日本語版は日刊工業新聞社、1985年10月刊行)。
S&OPの提唱者であるディック・リング氏とウオルト・ゴダード氏をはじめとするオリバー・ワイト社のコンサルタントとの付き合いもそのころからですね。
その後も、1990年代初頭からERPシステムと呼ばれるようになるアプリケーション・パッケージについて、海外で実績のあるシステムベンダー数社の日本進出を支援したり、日本側のシステム開発会社のパッケージの企画・実装にも協力しました。その中の1つが「Biz∫」。いまもユーザーが多くいることでしょう。
2000年代の初頭には、ITコーディネータという認定資格の設立にも参画しました。大手企業は通商産業省(現・経済産業省)がケアしていますし、中小企業は中小企業庁がケアしている。一方でそこに取り残されるのが、そのはざまに位置する中堅企業たちなのです。これらの企業の情報化を下支えできる知識ある人材を育成する目的です。
中堅企業は、単独で企業の情報システムを専門で担当するCIO(情報処理担当役員)人材を確保するのが難しいのです。それであれば、ITコーディネータを育成して、彼らがITシステム導入の橋渡しをすべきだろう、と。この点で、通商産業省の当時の課長だった原山氏は非常に頭脳明晰な人だった。この資格設立は彼の発案によるものです。
また、1990年代の後半からはバランス・スコアカード(BSC)や戦略マップによる戦略の展開などについても、IT関連を含む多くの企業に指導を行いました。MRPやERPがオペレーションの部分を管理するものだとすれば、BSCは戦略を管理するものです。トップからのアプローチがBSC、ボトムからのアプローチがMRPやERPといえるでしょう。
編集部 S&OPにはなかなかたどり付きませんね(笑)。
松原 S&OPというキーワードに着目した最初は、先にも触れたS&OPを始めて提唱した『Orchestrating Success: Improve Control of the Business with Sales & Operations Planning』(Richard C. Ling,Walter E. Goddard、Wiley、1995/5)をオリバー・ワイト社からいただきときですね。マネジメントが製造業の需給を、まるで指揮者がオーケストラを指揮するがごとくに、うまく調整するといった原題で、1988年発行の本です。
実は1990年の初期にはSAPなどのERPパッケージ製品で、素早くS&OPの名を冠したモジュールを出しているところもありました。でも、当時は情報量も少なく、いま1つピンとこなかった。日本ではまだERPうんぬんという話題が主流で注目されていなかったこともあります。
編集部 それでは、いつピンときたのでしょう?
松原 その必要性を直感したのは、1996年にオリンピック直後の米国アトランタで、MRP II、S&OPの著名なコンサルタントであるデーブ・ガーウッド氏を訪ねたおりに、同氏が著したS&OPの小冊子を読んだときです。翌年に出版した拙著『図解ERPの導入』(日刊工業新聞社、1997年12月)でS&OPに10ページを割き、ERP研究推進フォーラムの講演などでその重要性を力説しましたが、やはり普及するまでには至りませんでした。
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