さて、注文の全てに人力で帳票対応するのに限界が見えてきたことをきっかけに、笠原氏は現場のカイゼンに乗り出す。
「まずは、材料調達部門の情報整理が第一でした」
由紀精密のITシステム改革は、まずこの環境規制への対応をフックとした調達部門で扱う材料データの情報化からスタートした。
由紀精密の場合、在庫スペースを多く取らないこともあり、発注に連動して購買するのではなく、ある程度まとめて材料を購入しておくスタイルを採用している。
材料納品のタイミングで、材料メーカーが添付してくる製品情報資料をデータとして持って置き、部材と、加工後の部品との対応ができていれば済むからだ。
ここでは、由紀精密が現在運用している材料管理を写真とともに紹介しておこう。
よく日本の製造業は「現場が強い」といわれる。由紀精密の現場もとてもアットホームな雰囲気で、結束は固そうだ。そうでなければ先のコマのような面白いことはなかなかできないだろう。笠原氏が管理システムを発案したときはどうだったのだろうか?
「最初は否定的な意見が少なくありませんでした」
以外にも、由紀精密の場合もいったんは難色を示されたそうだ。
「ただ、それには理由があったんだと思います」と、笠原氏は振り返る。
「いまとなっては、私自身が現場を理解せず、1人よがりの提案ばかりをしていたんだと思います。勝手が分かっていない中で、相手を思わずに提案していては、どんな場合もうまくいかないですよね?」
現場との意見交換を進める中で、「やはり現場のことは現場の意見を尊重しなくては」という姿勢に変化していったそうだ。
「私からは見えない問題も、現場の担当者からはよく見えている。その意見を真摯に受け止めなくては、うまく回らなかっただろうと思います」
笠原氏は、発注者の要求をクリアすべく材料調達のシステムと生産管理システムを接続する仕組みを自力で構築していった。
「初期コストをかけず手探りで目的の仕組みを構築していきました」
大手企業のようにポンとパッケージシステムを買って、SIに任せるようなやり方はできない。その分、アイデアがあれば、すぐに実行できる。
後述するが、手探りで徐々に構築していく仕組みの弊害もある。だからといって実行しないのでは意味がない。できることを、やりやすいように作っていった。
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