「FPD International 2009/Green Device 2009」(2009年10月28〜30日、横浜)では、サムスンモバイルディスプレイ(Samsung Mobile Display:SMD)とLGケム(LG Chem)の有機EL照明パネルが展示されていました。両社とも試作品の展示であり、2年後の実用化を目指しているとのことでしたが、現在のところ、まだ事業化はされていないようです。
2010年には、韓国知識経済部が民間企業との共同開発プロジェクトに、30億ウォンの助成を行いました。このプロジェクトでは、「2013年に家庭への有機EL照明普及」を目標にしており、蛍光灯に替わる水銀などの有害物質を使わない、地球環境に配慮した次世代照明の開発と普及/促進を進めています。プロジェクトの狙いは、有機EL産業の課題となっている、パネル製造装置の開発と製造能力強化のようです。第4世代基板に対応する有機EL照明用の真空蒸着装置が、低コスト量産ライン実現の鍵を握る製造装置と位置付けられています。
このプロジェクトの参加企業として、LGケム、サニックシステム(Sunic System)、NeoView KOLON(有機EL照明パネルメーカー)、SNU Precision(有機ELパネルの製造装置メーカー)などの名前があります。
「FPD International 2009/Green Device 2009」での、SMDとLGケムの有機EL照明パネル試作品展示から既に2年が経過しています。そこで、サムスンとLGの有機EL照明試作品公開に備えた日本特許出願状況に注目してみましょう*。
*本稿の調査対象 特許が出願されてから、公開されるまでの期間は通常1.5年程度かかります。このため、本稿の調査では直近の出願については追跡しきれません。あらかじめご了承ください。
図1のサムスンとLGの有機EL照明に関わる日本公開系特許出願件数推移をご覧いただきたいと思います*。
図1に示した特許件数推移から、以下のことが分かります。
先の記事でも言及したように、照明機器市場の規模は照明用光源(有機EL照明では有機ELパネルに相当)そのものの市場規模の3倍くらいあり、ブランドも照明事業の重要な要素になっています。そこで、特許情報から「有機EL照明回路の特許出願状況」を見てみることにします***。
*サムスン・LGの特許検索対象 現在の出願人/権利者がサムスン、あるいはLGである特許に注目して調べてみました。ここでは、Fタームテーマコード「3K107:エレクトロルミネッセンス光源」のうち、Fターム「3K107AA01:有機」と「3K107BB02:照明,光源」が同時に付与されている特許を「有機EL照明に関わる特許」と見なしています。
**調査方法 商用特許データベース(「CPA Global Search」)および韓国特許庁の特許データベース(「KIPRIS・英語版」)を用いて、有機EL照明用回路系特許の韓国および世界への出願状況の調査も試みました。IPC(国際特許分類)を用いた特許検索を行い、「LED照明か/有機EL照明かの判断」を行いましたが、1.5年以前までには大きな動きはなさそうです。
***日本企業の動向 「日本企業の有機EL照明への取り組み状況」については、以前の連載(後編)をご参照ください。なお、各企業の有機EL照明回路への取り組みに関するニュースや取材記事はほとんど見当たりません。
有機EL照明回路に関わる日本公開系特許について、有機EL用リン光材料の登場した1998年以降の累積特許件数に注目してみたいと思います(出願年:1998〜2011年末、図2を参照)*。
*有機EL照明系回路特許群の作成 Fタームを用い、まず有機EL照明回路に関わる特許群の作成を試みました。テーマコードの「3K107:エクトロルミネッセンス光源」と「3K073:光源の一般回路」に注目すると、近似的には次の検索式になります。
3K107AA01*3K107BB02*(3K073+3K107HH)
ANDNOT 3K107AA01*3K107HH05
ここで、各Fタームは「3K107AA01:有機」「3K107BB02:照明,光源」を対象に付与される多観点の特許分類です。なお、「3K107HH:回路」のうち、ディスプレイ用回路となる「3K107HH05::画素回路」だけを除きました。
図2から、世界三大照明企業であるフィリップス(蘭:Philips)、オスラムセミコンダクター(Osram Semiconductor、独Siemensのグループ企業)、General Electric(米:GE)は外国企業ですが、日本市場に向け、既に特許出願の布石を打っていることが分かります。そして、有機EL技術の創始企業であるコダック(イーストマンコダックおよびグループ企業)の累積特許出願件数も気になるところですが、経過情報で確認すると、大部分の特許は「見なし取り下げ」となっており、コダックの企業経営の現状を反映したものとなっています*。
図2に登場する日本企業として、照明企業であるパナソニック、NECライティング(有機EL照明ブランド:LIFEEL(ライフィール))、ローム(ルミオテックに出資:出資比率34.0%)、そして有機EL照明事業開発に取り組むコニカミノルタ(有機EL照明ブランド:Symfos(シンフォス))と住友化学**があります。
既に照明機器ブランドを持っているパナソニックは、2011年4月に、パナソニックOLED出光照明を設立し、同年9月には、有機EL照明パネルを国内外の照明機器メーカー向けにサンプル出荷を開始しています。そして、予定通り、2011年12月から有機EL照明モジュール(制御回路内蔵)を発売しているようですから、図2から分かるパナソニックの積極的な特許出願状況もうなずけるものです。
そして、LED照明事業参入を果たしている三菱化学(照明ブランド:VELVE(ヴェルブ))と組んだパイオニア(東北パイオニアを含む)の名もあります。
日本公開系特許の出願状況から見る限り、NECライティング(NEC系列の照明企業)は有機EL照明への事業開発意欲は高いようですが、東芝ライテック(東芝系列の照明企業)は、当面LEDに注力するものと推察されます。
これまでの特許情報、ニュースリリースなどから整理した「有機EL照明業界の構図」は図3の通りですが、これらの企業から有機ELパネルを購入して、有機EL照明機器/器具に仕上げようとする企業も登場します。
では、一体なぜ、パナソニックは有機EL照明事業開発に、これほど熱心なのでしょうか。このあたりの状況を推察してみたいと思います。
*CKSWeb CKSWebでは、「審査審判情報」から出願された特許の現在の状況を知ることができます。
**住友化学 高分子有機EL照明を狙う住友化学の名もありますが、ここに取り上げた特許は光通信関連用の照明特許であり、有機EL照明パネル向けのものではありません。
知財マネジメントの基礎から応用、業界動向までを網羅した「知財マネジメント」コーナーでは、知財関連の情報を集約しています。併せてご覧ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.