羽廣氏によると、一口に「農機具のカスタマイズ」といっても、耕作する「農作物の種類」や「土壌の質」などによって、農家側のニーズは実に千変万化だとか。
当然、大手の農機具メーカーは、できる限り最大公約数的なニーズをまとめあげ、農機具として製品化をしています。しかし、それでは救いきれない農家側のニーズが多くあるといいます。
例えば、「ゴボウ」と一口に言ってもいろいろです。気候風土やさらにその土地の「土壌の質」などによって、さまざまな品種・大きさのゴボウがあります。一方、農機具メーカーの作る農機具は、当然、最大公約数のゴボウの長さから逆算した装置設計。なのでゴボウ農家では、自分の家のゴボウのサイズに合わない農機具でも、仕方なく使い続けるということもありました。
しかし、やはり各農家に合った大きさの農機具を使えた方が、農作業の手間も省け、生産性は高まることは必至です。むしろ、農機具のちょっとした部分が合わないことが、大きなストレスを生み、生産性を落としかねないのです。
羽廣氏がいうには、そのような細かなカスタマイズのニーズは、日本中の農家に無数にあるはずで、しかも、それらはいままで開拓されてこなかった市場だといいます。
これまで農家から個別に受けていたカスタマイズ部品は、自社のオリジナル部品として販売しました。
その代表的なものが、「サクサクススム1号」というオリジナルプーリーです。このプーリーは、小型農地管理機のエンジン向けのプーリーとして、群馬県のゴボウ、ネギ農家から製作依頼を受けた物です。
従来のプーリーのサイズは2インチでした。「ゴボウ」や「ネギ」の作付け用の農地管理や除草などでは、それほどトルクは必要ではありませんが、「もっと作業スピードを上げたい」というニーズがありました。
作業スピードを上げたいとなると、エンジン回転数を大幅に増やさねばならず、燃費の悪さと作業性の悪さ、さらに騒音の大きさが問題となります。そこで、羽廣氏に改善の依頼が来たのです。羽廣氏はプーリーの形状を現物からスケッチし、それを基に3インチにサイズアップして製作。試行錯誤の後、懸念された問題は解消し、高速回転のエンジンが採用可能となりました。
これとは別に、ゴボウ収穫装置用のプーリー「ザクザクホルエ1号」も開発し販売開始。収穫中、プーリーに泥やゴミが入ることを防ぐというものです。
羽廣氏は完成した自社ブランド製品をSNSやWebページを活用しながら、市場へ出していきました。「農機具カスタマイズ計画!」というFacebookページも立ち上げました。
Facebookページでは、実際に羽廣氏がお客さんから依頼を受け、加工してカスタムした農機具を公開していますが、依頼を受けた部品の加工の流れが分かるような形態で写真がアップされています。
実際、Web上での評判を聞き付けて、はるばる九州からの依頼もくるなど、全国の農家に眠るカスタマイズのニーズを確実にモノにしつつあるようです。
羽廣氏を取材後、私がこの記事を執筆する途中で、「農機具カスタマイズ計画!」をチェックしたところ、また新たな動きが起こっていました。農家さんの紹介で農機具販商社からの引き合いも出てきているというのです。
商社側は羽廣氏の製品を扱うことで、「当社の農機具は、標準品とは“こんなところ”が異なっていますよ」という具合に、顧客満足度の向上と他社との差別化が図れるというわけです。
プーリーなど小物部品のカスタマイズから始まった羽廣氏の農機具カスタマイズですが、最近では農機具販売商社さんから、トラクターのバケット(写真を参考)の拡張カスタマイズのように、大型の依頼もくるようになったそうです。
左写真は、通常ついているトラクターのバケットでは、石や砂を運搬するためついているものですが、このカスタマイズ要望では牛舎用のしきものおがくずの運搬なので 石や砂よりも比重が軽いおがくずを、より大量に運ぶために、バケットの先を延長して容量を増やしているのです。
いままではCtoBの流れの商流であったものが、BtoBの流れもできつつあるということです。
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