サステナブルなモノづくりの実現

それは「後ろ向きな仕事」? 「前向きな仕事」?“明るく・楽しく”!? 環境配慮型設計・現場の心得(2)(1/2 ページ)

「え〜、そんなつまらない仕事勘弁してよ……」と言いたくなる指令が降ってきた! 元“プロのサラリーマン”カイゼン人ならこうしてISOxxxxの面倒な仕事を乗り切る。LCAなんてつまらない、と言わずに読んでみて。

» 2011年10月21日 11時00分 公開

「後ろ向きな仕事」「前向きな仕事」

 “環境配慮で”と一口にいえど、有害物質の不使用、生産時や使用時のCO2の排出削減、そして適切な廃棄処理など、範囲は膨大です。一言でいえばLCALife Cycle Accessment)を行うということなのでしょう。

 私はサラリーマン時代に社内にクラブを作り、部長として内燃機関を使った省燃費レースに出場していました。ホンダのスーパーカブを新車で買い、何人かで通勤に使いながら慣らし運転をして、そのエンジンをばらばらにしてさまざまな改造を施す。

 また車体もCAD(当時は2次元CAD)で図面を引き、アルミの角パイプフレームで組み上げていく。カウリング(これが一番大変)も硬質ウレタンでモデルを作り、雌型を作って反転。カーボンは使いたいけど、予算はないし設備もないのでガラスクロスでハンドレイアップ。大会が近くなると定時後すぐに車両製作に取り掛かり、また仕事に戻るなんてことを日々繰り返し「こりゃあ仕事の方がよっぽど楽だ〜」なんて思ったこともありますが、やはり自分たちで設計〜製作〜テストドライブした車両が鈴鹿サーキットのメインストレートを結構な速度で走り抜けるのを見ると、それまでの苦労は全部忘れてしまうし、「また翌年も出るぞ!」というポジティブマインドになりますね。

 さて、実際の開発現場ですが、先のエピソードのようにクラブ活動や遊びではないわけですから、「できた〜! 楽しかった〜!」で済むものではありません。でも製品の消費エネルギーを新技術や工夫でできるだけ減らす設計行為はとても楽しいのではないでしょうか?

 本連載第1回の冒頭で例に挙げたホンダのCVCCエンジン、初代プリウスのハイブリッドシステム、そしてそのハイブリッドに正攻法で真っ向勝負、いま注目のマツダ「SKYACTIV TECHNOLOGY(スカイアクティブテクノロジー)」*。圧縮比14:1を誇るパワートレインだけでなく、ボディ下面をカバーすることによるCD値**の向上(欧州車では当たり前ですが、国産車では一部の高級車だけ)など、カタログを読んでいるだけでワクワクしてくるのですから、実際に開発設計に携わった方々は、新型デミオが市場に投入され、いきなり1万台のオーダーが入ったときにはどんなにうれしかったことか、想像に難くありません。もちろん発売までには多くの壁にぶち当たり、寝る間も惜しんで仕事をし、辛く苦しいことも数えきれないほどだったとは思いますが、それを忘れさせるほどの達成感が得られたことでしょう。


*SKYACTIV TECHNOLOGY マツダが開発した新型デミオなどに搭載されている内燃機関の技術。詳細はマツダのWebサイトを参照。

**CD値 空気抵抗係数のこと。


 圧縮比を14:1にするための新たな発想、グラム単位での軽量化の新たな工夫などは、エンジニアであれば時間を忘れて取り組めることでしょう。今回の表題でいうところの「前向きの環境配慮設計」です。しかし、「化学物質の含有量をppm単位で算出しなければならない」と言われたらどうでしょう? 「え〜、そんなつまらない仕事勘弁してよ……」となりませんか? これが「後ろ向きの環境配慮」です。

初期のCVCCエンジンSKYACTIV-G 1.3エンジン 参考画像 右から初期のCVCCエンジン(Honda社史・50年史/第8回より)、マツダ「SKYACTIV-G 1.3」エンジン(マツダの2011年5月18日付けプレスリリースから)


 さて、15年も前の話で恐縮ですが、私がコンピュータ周辺機器メーカーで製造部門の係長として勤務していた1997年のある日、品質管理担当取締役から「相談がある」と呼び出されました。この取締役からの「相談」はほぼ90%が「業務指示」なので、嫌な予感を抱えながら会議室に行きました。

 予感的中、相談(指示)内容は「関君、ISO9001の認証取得の仕事してくれないか?」とのこと。そのときはすぐに、「え〜っ! そんなつまらない仕事、嫌ですよ!」と切り返しました。私にとっては品質マネジメントシステムの構築などという仕事は「後ろ向きの仕事」だったのです。

 しかし、「そうか。分かった」なんて言ってくれるわけがありません。取締役の次の言葉は「この仕事がつまらないってことが分かっているのが君しかいないんだよ。つまらない仕事だからこそ早く終えようという気持ちが働くだろ」です。「(心の声:ほら、やっぱりああ言えばこう言うんだよな〜。相談じゃないじゃん)分かりました。1年でやりましょう。その代わり、認証取得したらすぐに製造部門に戻してくださいよ!」と引き受けるしかないですよね。結局、筆者は翌月から「ISO9001認証取得事務局リーダー」として機能しました。

 結果、宣言通り1年でISO9001の審査登録企業となるわけですが、マネジメントシステム構築そのものがゼロからのスタートなので、クリエイティブな部分も多々あり、しかも、自分の書いたシナリオ通りに社長が品質方針を社員全員に全社朝礼で伝えたり、マネジメントレビューで管理職たちに「どこぞの部署にはこういう問題があるので改善するよーに!!」と指示をするのですから、面白味もありました。

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