パリ市は都市交通問題を解決するために、Autolib計画の運用を開始した。1000カ所のステーションに3000台のEVを配置し、低額でシェアできるようにする。この規模の取り組みは世界的にも例がない。国内では大阪府が日本版Autolib計画を進めている。
世界の大都市は交通問題、特に自動車交通問題に苦しんでいる。地下鉄網やバス網といった公共交通機関と、個人や企業が所有する乗用車のバランスを取るためには、私有車を何らかの形で規制するか、インセンティブを与えて制御しなければならないだろう。廃棄物が少なくなり、渋滞が減ることが目的だ。さらに安価で使いやすく、便利な交通システムを目指さなければならない。
電気自動車(EV)は、都市交通に革命をもたらし得る。騒音がなく、CO2(二酸化炭素)を排出せず、小回りもきく。自宅の隣に公共駐車場ができると、排気ガスの影響を受けるが、EV駐車場なら大丈夫だ。だが、EVはまだまだ高価であり、個人や企業がEVを導入するのを待っていては、都市交通システムはなかなか変わらない。
人口220万人、都市圏人口1200万人というヨーロッパ有数の巨大都市パリ市は、大量のEVとEV用のサービスステーションを組み合わせたカーシェアリング・サービスを導入する。2008年にパリ市のベルトラン・ドラノエ(Bertrand Delanoë)市長*1)が立ち上げた「Autolib」計画だ(図1)。都市交通システムに新しい要素を加えることで革新しようとしている*2)。
私有のガソリン車よりもさまざまな点で優れたカーシェアリング・サービスがあれば、ガソリン車は次第に使われなくなっていくという目算だ。パリ市の試算によれば、Autolib計画によって、私有のガソリン車が2万2500台(ガソリンによる走行距離換算で、1億6450万km)減少するという。
*1)ドラノエ氏は「velib'」と呼ぶ自転車シェアリングシステムを2007年に立ち上げることでパリ市の自転車問題を解決。Autolibは対象を自動車に広げた形だ。
*2)オランダの首都アムステルダム市(人口76万人)はパリ市とは異なり、私有車を全てEV化しようとしている。2010年までに300台のEVと200カ所の充電スタンドを配備した。2015年には市内の全ての車の5%に当たる1万台をEVに変え、2020年には同20%に当たる4万台、2040年には全量20万台のEV化を目指している。EV(とEバイク)を導入するための補助制度を使って推進する。公共充電スタンドの充実の他、EV購入価格の50%補助や税金の低減、EV駐車場の無償化などの手段を用いる。
Autolib計画では、EVを3000台導入し、シェアリングステーション(ステーション)を1120カ所設ける。規模において世界最大級といえる。
2011年10月に最初のEV66台と33カ所のステーション*3)を組み合わせたシステムの試験運用を開始。2カ月間の試験運用の後、2011年12月5日に本格運用を開始、次第に規模を拡大していく。
*3)東西12km、南北10kmに広がるパリ市の1区から20区まで満遍なくステーションを配置した。
EVとステーションの拡大は次のように進める。まず、2011年12月までに広域パリ(パリ近隣のイルドフランス内のAlfortvilleからVilleneuve-la-Garenneまでの46の街を含む)に、EVを250台配置、250カ所のステーションを設置する。2012年6月までに1740台のEVと1100カ所のステーションに拡大する。
パリ市全20区内に設置されるステーションは最終的に508カ所になる予定だ。これは、1km2当たり、6カ所弱のステーションという割合に相当する。自宅とステーション、ステーションと目的地の間を徒歩で移動するとしても、この密度であれば数分の距離になるだろう。
ステーションは、専任スタッフが付くかどうか、付加サービスが受けられるかなどによって、4種類に分かれる。最もシンプルなステーションは道路脇に駐車帯が指定されて、歩道に充電器が設置されているだけというものだ。
Autolibで導入するEVは、3ドアの「Bluecar」(図2)。フランスの実業家で富豪のバンサン・ボロレ(Vincent Bolloré)氏が起業したフランスBolloréグループが製造した。Bluecarの特長は搭載する二次電池にある。2008年に同グループが立ち上げたフランスBastcap*4)がリチウムポリマー二次電池の製造を担当した。
*4)同社はリチウムポリマー二次電池と大容量キャパシタのみを開発、製造している。このため、今後、大容量キャパシタを搭載したBluecarが登場する可能性があるという。
ステーションの数は多く、EVの基本性能は、日本国産のものと比べても見劣りがしない。だが、実際にサービスを受ける価値はあるのだろうか。
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