「グローバルで展開する強い企業の多くはすべてを掌握し、各プロセスの責任者が迅速な意思決定をしています。欧米企業はもちろん、隣国の大手エレクトロニクスメーカーもその典型といえるでしょう」
それに引き換え、現場主導が中心の日本企業の手法は、課題解決までのスピードで劣る場合が少なくないようだ。富田氏によるといままさに大手の日本企業が、「阿吽の呼吸」から脱して、グローバルで戦える体制作りを目指してグローバルサプライチェーンをつなぐ仕組みを模索しているところだという。
「私たちのところにも問い合わせが増えつつあり、実際に導入中の企業も複数社あります。こうした事実からも、大手製造業各社は、直近のグローバル化での課題解決に向けて、あらたな『つなぐ仕組み』作りに取り組み始めているようですね」
新しい環境に合わせたサプライチェーン管理と意思決定手法の導入は、超大手企業だけでなく、独自の海外展開を進める各社にとっても1つの有効な対処法になるのではないだろうか。
本稿で取材に対応いただいた日本アイ・ビー・エムでは「IBM Global Integrated View(GIView)」という仕組みでこの課題を解決している。
「GIViewの仕組みを使うとデスクトップ上に『仮想大工場』ができます。『仮想大工場』というのは、例えばグローバルに分散するサプライチェーンのすべてを、あたかも手に取るように掌握できる、ということです」
GIViewは、「仮想大工場」としての仕組みをベースに、生産現場から経営向けの情報までを1つの統合された環境で示す。
図を見ると分かるように、経営判断のための「マネジメント・コックピット」層、計画系(PSI)の層、財務の視点で判断するERPの層……と、企業の意思決定プロセスと権限者の配置に即した構成になっている。
そのいずれの情報からも、「どの工場のどの工程でエラーがあるか、何がボトルネックになっているかが分かる」ようになっている。
これの意味するところは、ただ「見える」という事実だけではない。世界中に広く分散したサプライチェーンを、1つの製造ラインとして見られること、またその動向を、計画への影響・財務への影響・経営への影響を含めてすべての担当者が同じように把握できることを意味する。
例えば過去の記事で紹介した日産自動車のNPW活動を思い出してほしい。日産自動車では「限りない顧客との同期」を目指した「同期生産」に取り組んでいる。サプライチェーン全体を、移送や通関を含めた1つの生産ラインとして見ていくことでボトルネックを見つけ出し、都度改善を行っているが、これと同じ仕組みが実現できることになる。UI上にアラートが出たら、それを掘り起こしていけば、どの製品のどの部品がいつ、どのようにして遅れたかがひと目で分かるようになる。つまり、問題とその原因把握までが自動化できることになる。こうなれば、あとはアクションをどう起こしていくかを検討するだけでよい。
計画系の担当者は最適解を見つける手続きに取り掛かる。判断が付かない大きな課題があれば、経営層のレビューを求めるだろう。そのとき、すべての担当者が同じ情報を把握していることは、判断速度を高めるための必須要件だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.