デキる男、タカハシくんにダメ出しをされてしまったイトウくん。ところが意外なところに救いの神が現れて……。
定時退社ができている同期のタカハシくんに、業務カイゼンのヒントをもらうべく意気揚々と勉強しに行ったワケですが、タカハシくんに「生産管理の前提がない!」とダメ出しされてしまう結果になりました。完全にKOされて自部署に戻ってきた始末です。しょぼくれながらも課長に成果を報告しなくては……。
イトウくんは成果報告書を作成しだしました。
あー、てんでダメじゃないか……。ちょっと落ち込んだので社食にでも行ってリフレッシュしよっと。
社食のメニューは安さと量が自慢で、ボクは毎日昼と夕方の2食をほぼここで食べています。日替わり定食を半分くらい平らげたころ、ボクの携帯に着信が!
もしもし。
いま大丈夫?
うん、食事中だけど、すぐ後でかけ直すよ。
分かった。じゃ、後でね。
残りのおかずを飲み干す感じで平らげて、中庭に移動して彼女に電話です。
この前はゴメンね……。
ワタシの方こそ、理由をちゃんと聞かないで怒ってゴメン!
そうそう、今日はこのままトラブルがなければ早く帰れるけど?
そうなの? じゃぁ、夕方にでも電話してね。期待しないで待ってるから!
〜 〜 〜
よかった〜。彼女の声のトーンが少し高くなっているみたいです。
正直なところ、現場は全然カイゼンされる気配はないし、自分でちょっと頑張ろうと思ったら、すぐ挫折しちゃうしで、仕事は忙しいままなわけで。
彼女との関係を修復する努力といっても労力が要るだろうから、このままだと彼女とはもう終わってしまうのかな、弱気になりかけていましたが、彼女の声を聞いて少しホッとしました。
さて、今日こそは定時で帰ろう! 午後はもちろん定時に上がって彼女と会うことだけを目標に仕事をこなすことにしました。夕方には、昨日以来の計画変更による現場の進ちょく状況を聞いて回り、大きな問題がないことを確認し終わりました。課長にも、2日連続深夜勤務したので、今日こそは定時に帰りますと宣言済みです。
工場からぞろぞろ出てくる社員の流れに乗って駅に向かいながら、彼女に電話して待ち合わせ場所を決めました。今日は2人でよく行く居酒屋に直行です!
ボクは彼女より先に着き、ビールを飲み始めました。
〜 〜 〜
よっ!
振り向くと彼女が! しばらく会えなかったけれど、久々に見た彼女はやはりウツクシイ!
取りあえずワタシもビールかな。ね、おつまみも食べるよね?
そういうとテキパキとオーダーを始めます。彼女のオーダーが終わるタイミングぴったりでビールが運ばれてきます。いつも段取りいいんだよね。
さてっ。取りあえず、お疲れ!
乾杯の後、まずはボクから話を切り出しました。
この間はごめん。あまりにも疲れ果てて、状況を説明するのもしんどくてさ……。
ワタシも聞き上手になってあげればよかったんだけど。そうはいっても、あなた、ドタキャンは多過ぎるし、そんなに急に残業になったりなんて普通しないでしょう?
そうだよね。会社の同期にもいわれたんだけど、ボクの職場が何せ特殊な環境なんだ。うまく説明できないんだけど、毎日トラブルの山なんだよ。
そんなトラブルの山の職場って、トラブル対応室みたいなところなの? でもあなたって工場の中でも、現場じゃなくて事務系っていってたわよね。いままで詳しく聞かなかったけど、ちゃんと説明してほしいな〜。
ということで、彼女にとくとくと自分の仕事内容について説明しました。数分説明した後、彼女の目が気のせいか輝いています。
参ったなー、イトウくんの仕事って詳しく知らなかったけど、ワタシの仕事も説明してないよね♪
たしか営業からコンサルタントのような仕事に変わったっていっていたよね?
そうそう! よく覚えていてくれたね! ワタシはねぇ、じ・つ・はっ! いま製造業の業務改善を手伝う仕事をしているの。
ん? もしかしてセールストーク?? どきどきするイトウくんの思いを知ってか知らずか、彼女は嬉々として話を続けます。
まだコンサルタントっていうにはおこがましいけど、もうかれこれ2年以上勉強しているのよ。
えーっ。っていうことは、ボクの悩みって分かってもらえるのかな。
もちろん。理解できるというより改善の手伝いができるんじゃないかって思う。
マジでっ!
いたいた。救いの神がこんなところに。救いの神さまっていうのは彼女のことだったのか。
まず、イトウくんの職場だけど、典型的な“個別受注型”の職場ね。受注してから設計、製造を行うんでしょ?
コクコクとうなずくボク。すごいな。コベツジュチューガタというの……。なんだか舌を噛みそう。
世の中の生産管理は、たいてい、部品表がベースにあって、いかに在庫を削減するかをポイントにしているんだけど、イトウくんの職場では“中間在庫”なんてないでしょ?
そうだね。標準部品のような購入品の在庫は若干あるけど、基本的に中間在庫なんてないよ。
部品表、中間在庫と聞いたら、タカハシくんの話を思い出した。
そうそう。実は今日、社内の別の部署にいる同期に、そこで使っている生産管理の仕組みを聞きに行ったんだよ。そしたら、『部品表がないなんて生産管理ができない』っていわれちゃって、がっかりしてたんだよ。部品表がなくても何とかならないのかなぁ?
はいっポイントはいいですねー。
彼女の顔がやけにうれしそう。いまの彼女のしぐさにセリフを付けるとしたら間違いなく「えっへん」だな。かわいすぎる。
部品表は、モノを中心にしてモノの変化を現していくんだけど、イトウくんの職場は、設計業務や工場出荷後の現地工事まで対象でしょ? だ・か・ら、モノではなくて、発生する“作業”を中心に考えないといけないんだよね。そんなわけで、既存の生産管理の仕組みでは無理があるの。つまり別の管理手法が必要ってわけなの。
部品表じゃなくて、作業を主体にすればいいのか。ふむふむ……。
そ、それで別の管理手法って?
「オマタセシマシター。ツクネとモツニコミデスー」
核心に迫ろうとした瞬間、背後からささっと店員さんが料理を並べます。
まあまあ……。料理が冷めないうちに食べなきゃ。ね?
〜 〜 〜
うふふふ、と笑いながら卵焼きをふーふーする彼女の目がきらきらと輝きだしているのが分かりました。
こ、これはイトウくんに春の兆し……!?
株式会社シムトップス
シニアソリューションアーキテクト
伊藤 昭仁(いとう あきひと)
個別受注生産の製造業向けの生産スケジューラ/工程管理システムの導入前の提案からシステム導入後の立ち上げサポートまで、広範囲の業務に従事。
国内主要自動車メーカの金型部門、工機部門、試作部門、半導体製造装置から原子力、火力、水力発電の設備や石油精製設備などのプラント設備まで、幅広い個別受注タイプの生産工場へ100社以上のシステム導入経験を持つ。
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