CAEによる設計効率化を強く後押しする「PCクラスタ」とは、いったいどういうものなのか。PCクラスタの性能を見極めるポイントは?
CAEにおけるPCクラスタの活用がいま注目されている。近年、HPC(High Performance Computing:高性能計算)を使ったCAEが一般企業の製品開発に導入されるケースが増えているが、その普及の立役者がPCクラスタなのだ。HPCの世界をより身近にし、CAEによる設計効率化を強く後押しするPCクラスタとは、いったいどういうものなのか。
PCクラスタはその名のとおり、複数のコンピュータ(PC、PCサーバ)をブドウの房(クラスタ)のようにネットワークで接続したもの。CAEにおけるPCクラスタは、解析計算を高速に行うために複数のPCサーバで並列処理させるシステムのことだ。高性能なPCサーバを高速ネットワークで複数接続し、大量の演算処理をそれぞれの上で分散・並列処理することによって、システム全体としてはスパコン(スーパーコンピュータ)並みの高性能を発揮し、さらにスパコンよりもはるかに安価で実現できる。
ご存じのようにPCの世界は日進月歩で、最新テクノロジーがいち早く採用され日々性能が向上するとともにコストダウンへの努力も惜しみなく続けられている。そのように高性能化と価格性能比の伸びが著しいPCの恩恵を最大限に享受し、さらに用途や予算に応じて自由にシステム規模(ノード数)を拡大縮小できる柔軟性もPCクラスタの大きなメリットといえるだろう。
前述のとおりPCクラスタは「PCサーバを複数つないだもの」であるため、当然ながらPCサーバ単体のスペックがシステム全体の性能に大きく影響する。PC単体の性能演算速度については、1秒間に何回の浮動小数点数演算(FLOPS:フローティング演算の回数)ができるかが性能の指標になっている。CAEの場合も、そのほとんどがフローティング演算である。その能力(計算速度)は、CPUにおける周波数の高さで決まる。またメモリのバンド幅も重要で、高速なCPUに演算データを滞ることなく転送できる「バンド幅の広い高性能メモリ」が使えることも性能向上の大きなポイントとなる。
この点において、PCサーバは最新のPCテクノロジーの恩恵を常に享受できるため有利だ。しかし、例えば高速な最新CPU/メモリを搭載したPCサーバを使ったからといって、PCクラスタの性能が必ずしも向上するというわけではない。性能アップのボトルネックとなるのが「インターコネクト(ノード間の接続ネットワーク)」だ。
PCサーバでCPUやメモリの性能が向上したならば、分散させるデータもどんどん供給していかないとせっかくの高性能を生かしきれず、演算が滞りがちになる。ノード間でのデータ供給量を多くするには、高性能なインターコネクトが必要になる。小規模のクラスタで安価に構築したい場合にはGigabit Ethernetなどでもいいが、数百〜千台以上の大規模クラスタでは、InfiniBandなどの高性能ネットワークを使って「通信のバンド幅」を広くすることが大事になる。
またマルチコアCPUの場合は、ソフトウェアのコストアップにも注意したい。コア数が増えれば、動かすために必要なソフトウェアライセンスが増えてしまう。場合によってはHPCにおけるソフトウェアライセンスがシステムコストの半分以上を占めることもあるのだ。あえてマルチコアを使わず、その代わりにノード数を増せば、トータルのライセンス数を少なく抑えた場合でも、性能が向上するケースもある。ただしその場合はソフトウェアライセンスコストは削減できるが、ハードウェアコストや消費電力はかさんでしまう。
さらに解析用途によっては、ノード間のインターコネクトが性能にそれほど影響しないケースも出てくる。例えば電磁場解析や流体解析のようなノード間の通信量が多くなる解析には高性能なネットワークが必要だが、バイオや金融系など膨大な量のデータを扱うパラメータスタディ系の解析では、ノード間の通信量はぐっと少なくなる。
PCクラスタを導入するに当たっては、使う解析アプリケーションの特徴をしっかり把握し、最適なシステム構成や規模を考えることが最も大事となる。PCクラスタを構成するコンポーネントは常に進化を続けているので、これらのポイントを考慮しつつ、コストと性能の最適なバランスを取ろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.