安価で提供するエムエスシーソフトウェアの新製品「MD Nastran Desktop」は、ワークフローのテンプレートが作成できる。仮装実験室の実現も可能!
エムエスシーソフトウェア(以下、MSC)は2010年9月1日、新製品「MD Nastran Desktop」を全世界同時発表した(時差があるため、実質は日本が初発表)。この製品は、FEM解析ソルバ「MD Nastran」、機構解析ツール「MD Adams」、プリ/ポストツール「SimXpert」の3製品をバンドルしたもの。従来製品のようなネットワーク環境のユーザーではなく、ローカル(ノードロック)ユーザーを対象とする。同社製品のUIはもともと英語だったが、今回の製品から日本語化された。
さらに今回は中小規模の企業でも手が届く価格帯で提供する。販売価格はリースで100万円(年間)から。買い取りは250万円からとのことだ(モジュールにより価格は異なる)。
「“とにかく買っていただけるお客さますべて”が対象といえます。もちろん、中小規模の企業だけではなく、大企業でもローカルで使用したいというニーズはあると思います」(MSC 加藤 毅彦 代表取締役社長)。
この仕組みでは、SimXpertがフロントになり、それぞれのアプリケーションを取りまとめる。SimXpertはプリ/ポスト(メッシングや解析結果表示など)機能を提供し、各解析ツールを取りまとめるとともに、ある程度詳細な形状も定義できる3次元モデリング機能も備える。
SimXpertはCATIA(ダッソー・システムズ)、Pro/ENGINEER(PTC)、NX(シーメンスPLMソフトウェア)のデータをネイティブ(フィーチャツリーごと)で直接取り込んで編集ができ、逆に修正した形状もCAD側に戻すことも可能だ。このマルチCAD機能を利用するには、事前にそれぞれのCAD専用モジュールを追加する必要がある。
テンプレート(ワークフロー)作成機能を備えるのも、この製品の大きな特徴。例えば解析チームの専任者がSimXpertでテンプレートを作成し、解析の専門家ではない設計者がそのテンプレートを用いて高度な解析を行う、といった作業連携が可能だ。
テンプレート作成のトレーニング(標準で、1日程度)も用意しているとのことだ。もちろん、同社エンジニアのコンサルティングによりテンプレート作成を支援してもらうことも可能だ。
このテンプレート機能は、従来の専用言語を使うプログラミングのような機能ではなく、フローチャート作成ツールのようなUIを持つ。マクロで記録した作業は、以下の画像のようなフローチャートのデータに自動変換できる。
マクロで記録した機能から変換されたフローチャートのアイコンを消したり、増やしたり、線を加えたり……と、ドラッグ&ドロップで直感的に修正することが可能だ。
解析専任者の協力によりテンプレートの整備がしっかりとなされれば、設計者は実験室を利用するように解析することが可能になる。今回の製品は、まさに“仮想実験室”の基盤であるといえる。
同社の製品名に付く「MD」とは、マルチディシプリン(Multidiscipline:複合領域)の略だという。従来のマルチフィジックスによる連成解析は、さまざまな物理現象を表す数式を複数管理することで解析する。また、この場合は1つのソルバで、複数の式を解かせる。この方式では、精度の高い解が必ず出るとは限らないと加藤社長はいう。それに対し、実績のある複数の技術(複数の領域:Adams、Nastranなど)をつなぎ合わせて解くのがMD。連成解析には似ているが、強いていうなら疎(そ)結合の連成とのことだ。
「言葉上、その違いは微妙なのですが、実際に使ってみると実感すると思います。単体のソルバによる従来手法では、実現象と違ってしまうことが結構あります。MDは、それぞれのソフトウェアが長年積み上げてきた経験と技術を組み合わせ、かつフル活用することで、現実の現象を忠実に再現する仕組みです」と加藤社長は話す。
今回、主に提供されるのは、以下6つのパッケージ。「MD Nastran Desktop Structures」が基本パッケージとなる。それ以外にもユーザー要望に合わせ、自由に組み合わせ可能とのことだ。
便利なテンプレートがあったとしても、それを利用する人の技術知識があまりにも欠落していた(“解析以前”の問題)としたら、どうするのか。――MONOistの記事やゼミナールでも、設計者の技術力低下の問題をお伝えしてきた。同社でも、もちろんそのような現状を把握しているという。「大学の機械工学科で、材料力学を教えないところも増えています」(加藤社長)。
「昔(の企業)は、新人を教育して育てる余裕がありましたが、いまはありません。新人に先行投資をしたとしても、その間に退職してしまうこともありますよね。(今回の製品を教育の現場で使ってもらうことで)即戦力の人材を増やしていく手助けをしていきたいと考えています」(加藤社長)。
今後、同社が設立50周年を迎える2013年に向け、目指していくのは「MDO(Multi Discipline Optimization)」の実現。ツールの機能強化はもちろん、今回のMDがさらに最適化設計の領域へ踏み込んでいくという。加藤社長が旧エンジニアス時代に描いた解析の理想形態へよりいっそう近づいていくとのことだ。
「MSCは、わたしが小学生のころからある会社、つまり老舗です。この業界のベンダが、40年、50年と存続していくことは大変珍しいことではないかと思っています」(加藤社長)。
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