CADを使わない設計者、出世できない解析者MONOistゼミ レポート(5)(3/3 ページ)

» 2010年08月23日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]
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ディスクたまらん

栗崎

例えばXVLデータをクラウドに上げておき、形状データはお互いに持っておく。コンター図のデータだけをクラウドに上げておけば、それだけでセキュリティ性は高くなります。形状にマッピングしておいて、お互いが応力図を確認し合う、といったような。


栗崎

……いまわたしのやっているプロジェクトの関係で、そういうことができる仕組みを探していたのですが、MSCの加藤さんの講演中のデモ(VCollab)を見て、びっくりしました。あるじゃないですか。


MSC 加藤氏が実際に使用したデモURL:Viewerをクライアント側にダウンロードするための手続き用のログインid発行(無料)が必要になります(登録には時間がかかることがあります)
Dummy Crash Simulation
Audiのデモ

*データ提供:コラボレーション・テクノロジーズ(VCollabの日本総代理店)

衝突ダミーのデモ
加藤毅

このデモではアメリカのサーバにある解析データ(LS-DYNAの衝突ダミー)をWebブラウザ上の3次元ビューアで見ています。データはダウンロードしていません。ダウンロードしたデータよりは、少々表示が遅くはなりますが……。回転させたり、断面を切ったりもストレスなくできます。この仕組みを使えば、設計者は、手元のPCでWebにつないで、解析結果を見ることができます。スパコンの計算結果も、このフォーマットで見ることもできます。


加藤廣

遅いといっても、このスピードでも、十分ですね……。


加藤毅

ExcelやPowerPointにもこのビューアを張り付けられますよ。


栗崎

それでは、ますます設計者がPowerPoint&Excelにシフトしてしまいますね」


 (場内、笑い)

栗崎

例えば、HPCを使ってガンガン計算した結果をクラウドに載せ、複数の設計開発メンバーがそれぞれアクセスし、検証をするなんていうこともできますか?


加藤毅

セキュリティの環境を整備しておけば可能です。スパコン側のVPNにアクセスして複数のメンバーがモデルを回転させたり断面形状を確認するなどの協調設計が可能です。OP2ファイル(Nastranのポストプロセッサ標準出力ファイル形式)のデータ容量が数十分の1ぐらいになりますし、3次元CADのデータも大幅に圧縮して保存できます。


栗崎

どんどんクラウド化して、ブロードバンドな世界になっていきそうです。


浜崎

最近のお客さまの中には、計算速度は進化したけれど、プリポストはあまり進化してない、という方がいました。クラウドがはやり、ポスト処理計算のデータ量が大きくなりましたし、いろいろなアプリケーションが(その背後で)流れます。皆さん、可視化には大きな問題意識を持っておられます。


栗崎

設計者CAEが増えてきて、CPUがいくら速くなっても、浜崎さんがおっしゃったように、ポストプロセッシングが遅くなったり、共有できなかったりでは、特に遠隔地との協調設計において意味がないと、おっしゃる方々が多いです。解析結果を見るためにわざわざ1本ライセンスを買うのも、はばかられますし。


加藤毅

最近のCAEの解析結果は大きくて、あっという間に数十ギガバイトまでいってしまいます。流体解析では、数100ギガバイトは軽くいきます。そんな状態では、ディスクばかりをどんどん買い足さないといけません。本当にそれでいいのでしょうか? ……遅いスペックのディスクなら、いまはだいぶ安いですが……、それにしても、毎回そんなことを考えたくはないですよね。だったら、サーバにはグラフィックデータで保存した方がいい。ヨーロッパのスパコン業界は、そんな方向に動いています。『ディスクたまらん』というわけですね。


栗崎

(MSCの)加藤さんが『ディスクたまらん』とおっしゃっていますが……、富士通さんとしてはどうですか?


浜崎

当社のPCクラスタは2005年に登場しました。その当時は、1オンシステム、1アプリケーションの組み合わせといったものが、非常に多かったものです。しかし最近のPCクラスタは世の中でだいぶ認知され、センターマシンに位置付けられたことで、アプリケーションの数も非常に増えました。そういう背景もあり、ファイルサイズはだいぶ大きくなり、当然、吐き出されるデータのサイズも大きくなりました。このニーズに対応するため当社では、スケールアウト型分散ストレージで2P(ペタ)バイトまで対応した製品も提供しています。


加藤毅

クラウドコンピューティングはテレビCMでも流れるほどはやっていますね。確かに、ビジネス向けでは結構うまくいっていますが、エンジニアリング向けについては、まだまだです。実は、過去にMSCでもハードウェアベンダと組み、CAEのクラウドに取り組んだことがありますが、ファイル転送が重過ぎてうまくいきませんでした。

 これから、もしCAEのクラウドに取り組むなら、VCollabのような技術を適用しないといけません。そうしないと、インターネットのバンド幅がいまの10倍100倍になったってうまくいきません。そういうことを考えると、新しい技術はこれからもどんどん生まれてくると思います。そんな新しい技術をいかに早く適用するかが勝負どころですね。


設計者がCAEを使うためには、どうしたらいいですか?

加藤廣

すぐに設計者自身がCAEの専門知識を身に付ける、というのは現状では難しいかもしれませんが……。やはり若い人にCAEの技術を身に付けてもらうのが一番です。日産のように、新人の教育体制を整えることや、技術者の処遇やジョブローテーションのパスを考えていくことはやはり大事かと思います。


加藤毅

まず解析専任者たちが、『自分たちは技術者なんだ』ということや、『(自分たちの仕事が)設計に役に立つ』ということを再認識することが大事だと思います。経営者がCAEに期待しているのは、『いかに設計が製品に役に立つか』。技術力の有無よりも、それです。製品設計段階でCAEを活用することでコストや品質計算ができていることをしっかりと(経営者に)アピールできれば、自然と設計にも活用されていくのではないでしょうか。


浜崎

先日(2010年07月29日)、東京大学生産技術研究所で開催した『HPC最先端シミュレーション技術に関するジョイントシンポジウム』に参加してきました。そこで『先端的シミュレーション技術を駆使した設計の将来像と革新的HPCIの戦略的活用』ということでパネルディスカッションが行われました。そこで、さまざまなやりとりがありましたが、そこでも結局、いき着いたのは、人材の改革。DIPROの加藤さんもおっしゃったように『いかに人を育てていくか』が大事かと思います。


栗崎

今日は、さまざまな立場からいろいろなお話がありましたが、その中でわたしが一番ショックだったのは、設計者の仕事が“コーディネータ”あるいは“プランナ”になっていることですね。先日のテレビでも、日本の電機メーカー数社が束になってかかっていっても、サムスン1社にかなわないだろうという話題が出ていましたし、MIT(マサチューセッツ工科大学)に通う日本人はいまやゼロだと聞きました……。今後のMONOistゼミナールが、日本の製造業の未来をみんなで考える場所になってくれるなら幸いと思います。


 次回のMONOistゼミナール開催をお楽しみに。今回のようなCAEに限らず、CADやRP(ラピッドプロトタイピング)など……ゼミナールで扱ってほしいテーマがありましたら、MONOist編集部までご一報を。

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