ドラッグレースと言えば、GM社の「コルベット」やChrysler社の「ダッジ バイパー」に代表される、数百馬力のガソリンエンジンを搭載したスポーツカーが活躍するというイメージが一般的だ。しかし、最近では、重量が数百kgにも達する2次電池パックを搭載した電気自動車が、ガソリン車を差し置いて勝利を収めるようになっている。本稿では、米国で注目を集めている電動ドラッグレースカーや、それらを支える2次電池をはじめとした最新の部品について紹介する。
米国ワシントン州で電気自動車部品の会社(evparts.com)を経営するRoderick Wilde氏はレースカー「マニアックマツダ」を開発した。この車は、強力なパワーを備え、車体を立てて後輪だけで走行する「ウィリー走行」も行える(写真1)。また、その強力なパワーで車軸を折ってしまったことや、短い直線コースで走破タイムを競うドラッグレースで450馬力の「Dodge Viper(ダッジ バイパー)」を破ったこともある。
長年にわたってドラッグレースに挑んできたWilde氏は、「さらにスピードアップすれば、バイパーが止まって見えるようになるだろう。ほかのドライバーたちはレースをあきらめて帰ってしまうかもしれない」と豪語する。Wilde氏が単なるスピード好きの普通のレーサーだったとしたら、その実績は、地区のレース記録を塗り替えただけのことに過ぎなかったかもしれない。しかし、同氏は、単なる普通のスピード好きのレーサーではない。スピード好きの“電気自動車レーサー”なのだ。そしてこのことは、ドラッグレースの世界でも、また、より広い自動車の世界全体においても、非常に大きな意味を持つ。
Wilde氏には多くのライバルが存在する。米国電気自動車ドラッグレース協会(NEDRA)は会員数が約100名に達し、これまでにオレゴン、ミシガン、アリゾナ、フロリダの各州とワシントンDC、ならびに英国でレースを開催してきた。会員たちの間では、「ぶっちぎる」や「アクセル全開」、「モーターに電流をたたき込む」といった男性的な言葉が飛び交っている。Wilde氏のマニアックマツダと同様に、レーサーたちは、それぞれのマシンを「クレイジーホースピント」、「ホワイトゾンビ」といった名前で呼ぶ。そして、こうした賑やかな言葉の中心には、あふれんばかりのスピードが渦巻いている。
NEDRAの会長を務めるエンジニアのMike Willmon氏は、「ドラッグレース場では、『Corvette(コルベット)』や『Mustang(マスタング)』、『Audi(アウディ)』などのガソリンエンジン車が、電気自動車に負かされる機会が増えてきている。世間の注目も浴びるようになってきた」と語る。
確かに、電動レースカーは、人々の注目を集めつつある。“プラズマボーイ”の異名を持つレーサーであるJohn Wayland氏は、日産自動車の「Datsun 1200(以下、ダットサン)」を改造して、公道でも走行可能な電気自動車であるホワイトゾンビを開発した(写真2)。同車は、クォーターマイル(400m)を11.4秒で走破するという驚異的な記録をたたき出した。一方、Willmon氏は、1978年型の「Ford Pinto」を改造したクレイジーホースピントで、クォーターマイル12.4秒の記録を持つ。「KillaCycle(キラサイクル)」チームの創設者のBill Dube氏が保有する電気バイクは、クォーターマイルを7.82秒で駆け抜ける。その最高速度は269km/hにも達する。
これらの車両は、そのパワーのみならず、オーナーたちがわずかな予算で工夫を凝らしながら開発してきたという点でも注目に値する。車両の駆動モーターに高電圧と大電流を供給できるモーターコントローラが実用化できたのは、こうした電気自動車レース関係者の功績だ。また、最新の2次電池コントローラによって、巨大な2次電池パックにダメージを与えることなく充電できるようにもなった。
「これらの新技術は、電気自動車のレースカーの驚くような進歩につながっている」とレーサーたちは口をそろえる。Wayland氏に、ライバルであるWilde氏について聞いてみると、こんな言葉が返ってきた。「Rod(Wilde氏)は、しばらく前に、手作りの改造マツダ車でレースに出場して米General Motors(以下、GM)社の電気自動車『EV1』を破り、GMチームを慌てさせた。高価なACモーターを搭載する100万米ドルのメーカー製自動車が、ワシントン州からやって来たロングヘアーの男の改造車に打ち負かされたのだから、GMチームは本当にショックだったろう」。
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