「ケチケチ作戦」の結果何が起こるかの「因果関係」をTOC思考プロセスの考え方を使って考えてみましょう。
これまでも説明したように、たった1%の工数低減が工場の生産能力を著しく減らすのは、人を減らすと、潜在的なボトルネック工程の能力が顕著に減少し、減らした工数以上にライン全体の生産能力が落ちるというメカニズムでした。もしもそのような状況で受注が少しでも回復すれば、今度は作り切れず納期遅れを引き起こしたり、注文が受けられず失注して結果的にもうからないという問題が発生します。
むちゃなコストダウンをサプライヤに押し付ければ、サプライヤの経営が成り立たなくなり優良なサプライヤが脱落することが懸念されます。そうなれば、レベルの低いサプライヤを使わざるを得なくなって、自社製品の品質が落ちたり、工程が混乱し利益を減らすことになりかねないのです。
考えてみれば当たり前のことなのですが、このように何かを変えれば、ほかのものもその影響で変化することを予測しなければならないのです。
この状況下、資金的にも逼迫(ひっぱく)しコストダウン以外取る手が見つからないと感じることも多いでしょう。しかし、だからといって「問題」に対して「対策」という「一律」のやり方は数カ月間の緊急対策としては成り立つかもしれませんが、その後は悪影響が顕著になることを肝に銘じる必要があるのです。
さらに悪いことには、この一律作戦が企業の柔軟性を大きく損ない「部分最適」を助長しています。そして多くの企業で「自分は悪くない症候群」がまん延しています。
もし、「自社の業績が芳しくないのは不況だからだ」「目標を達成できないのは需要が衰退しているからだ」……こう考えたらどうなるでしょうか? 「業績が芳しくない」ことや「目標を達成できない」ことの原因が「景気」にあるといっているのです。
そうすると、景気が悪いのは、自分の責任ではない、だから、業績が上がらない責任も自分にはないのだ、自分は間違っていないのだということになってしまうのです。この考え方が高じると常に原因をほかに求めることになり、すべて自分は悪くないと考え自分を正当化し続けることになります。
もし景気が悪いことと、企業の業績が悪いことが因果関係で結ばれるならば、すべての会社の業績が悪いはずです。しかし、世の中のすべての会社の業績が悪いわけではありません。ならば、景気と業績の関係は厳密な因果関係ではなく、何かほかの原因もあるはずなのです。
では、こう考えたらどうでしょうか、これまでは、市場のニーズに合致しており、お客さまの満足を作り出せていたから売れていた。
しかし、状況が変わって(不景気になって)顧客のニーズが変化し、現在そのニーズを満たすことができなくなっている。だから売り上げが上がらず、業績が悪いのだと。要するに顧客の抱える制約条件が変化し、それに対する対応の不手際で業績が悪いのだと考えるのです。こう考えることができれば、まだまだ自分たちに取れる手段があることが分かるはずです。
好不況にかかわらず、市場や顧客は、あなたの会社の製品やサービスに対して100%満足することはありません。品質・納期・コスト以外にも、潜在的な多くの困り事を抱えているのです。
顧客のこういった状況は、顧客の不満や困り事の基になっている核心的な問題が存在し、その問題にライバルメーカーも対応できていないことを示しています。そして、顧客の抱えている問題は決して小さいものではありません。この顧客の不満足は、変化し続ける人間社会の宿命的なものかもしれません。
進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは、生き残るものは「強いもの」でも「賢いもの」でもなく「変化に対応できたもの」だけであると説いています。
好況も不況も「変化」としてとらえれば私たちはこの「変化」に対応しなくてはならない、いわば必然です。そして不況という「変化」に対し顧客の不満足は日々高まっています。売上の本質は「最終消費者」が買ってくれたときという原則を確認し、サプライチェーン上のプレイヤーがウィン-ウィンで売り上げを上げる方策を考えなくてはこの変化を乗り切ることはできません。
このような状況を打破するためには、衆知を集めることが必要です。説明したように、自分は悪くないと考えると、自分はこのままでいいと考え、変化を他人に押し付けてしまうことになります。各個人が行動するためには、実行すべき行動が自分のアイデアであるという明確な合意が必要なのです。
では、次回は確実に変化を起こすために、皆さんの周りの人間をどう巻き込んで皆さん自身が改革を起こして行くかを具体的に考えていきましょう。
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