P&Gが全世界で導入する「CSS」システムの秘密モノづくり最前線レポート(9)(2/3 ページ)

» 2009年06月16日 00時00分 公開
[原田美穂@IT MONOist]

2.5億ドルのコスト削減とR&D体勢の強化を支える「CSS」システム

 P&Gは、コンシューマ向けの美容製品や食品、家電製品までを含む、多岐に渡る生活用品を提供するグローバル企業であることは、読者の皆さんもご存じだろう。セッションでは同社のMaterial and Product Corporate Systems担当のJohn Planalp氏が登壇し、同社のPLMインフラストラクチャの構想と効果を紹介した。

 同社では、2008年11月に全社的なPLM基幹システムにENOVIA V6を採用すると発表している。同社では製品市場投入前のマーケティングやプロモーションなどのコミュニケーションが可能な3DVIA、統合有限要素解析などのシミュレーションを実現するSIMULIA、デジタルマニュファクチャリングのためのDELMIAなどといった個別の場面ごとのシステム活用は進んでいるが、それらのデータを統合しERPシステムとも連携する情報基盤を構築し、包括的な製品戦略に役立てようというものだ。

 一般消費材メーカーとしての知名度もさることながら、一方で同社は、優れたマーケティング戦略やイノベーション力も高く評価されており、ビジネス関連の論考で多く取り上げられる企業でもある。その理由の1つに、同社が研究開発を非常に重要視していることが挙げられるだろう。

全世界200万件の技術仕様書を一括管理

 さて、このように独自の技術による製品開発に積極的な同社では、保有する特許件数が現在使用中のものに限っても、実に2万4000件にのぼり、さらに年間3800件のペースで増え続けている。

 グローバルで製品展開を行っている同社では、従来37種の標準組織体、27種の業務プロセス・ビジネスユニットごとに仕様の異なるドキュメントを抱えており、それらを管理したり、ナレッジを共有して新たな開発に役立てるといったことが難しかった。この課題を解決するために、2000年から各拠点ごとの仕様を単一のグローバルシステムに統合する取り組みを始めている。この取り組みをシステム面でサポートしているのが、ENOVIAだ。

 P&Gが「Corporate Standards System(CSS)」と呼ぶこのシステムは、現在1万8000ユーザーからのアクセスに対応し、200万件の技術仕様書を管理しているという。

Procter & Gamble Material and Product Corporate Systems担当 John Planalp氏 Procter & Gamble Material and Product Corporate Systems担当 John Planalp氏
同氏はシステム構想立ち上げから「CSS」システム導入の指揮をとっている。

製品企画初期段階で高品質のプランニングが可能に

 技術仕様書を一括で管理できるようになった結果、複数の技術者が同じような技術仕様書を重複して作成する無駄の削減とともに「仕様承認手続きが30日から10日程度まで短縮した」という。また、各国ごとに異なる法令への対応も自動化されるため、運用コストをかけずにスムーズなデータの利用が可能になっている。

 加えて、開発工程で蓄積されている情報を次の製品開発に活用したり、協調作業が可能になるシステムであることから、同社の従来の開発工程と比較して「初期段階での手戻りが実に95%削減され、高い品質を保てるようになった」という。

 REACHやRoHSのような環境関連の法令への対応も各国・地域ごとに個別に実施する必要があるが、同社のシステムでは、単一のシステム上でそれぞれの国・地域向けの法令対応状況が確認できるようになっている。

 新たに導入を決定したENOVIA V6は、同社のPLM基幹システムのバックボーンとなりグローバルな製品開発プラットフォームとして活用される。氏によると最終的には、エンドツーエンドでの連携を実現し、生産にかかる費用・時間を削減し、情報の集約とスケールメリットを追求したモノづくりの仕組みを構築する予定だ。

 P&Gのシステム統合構想は今後も適用範囲を広げていく予定だとしているが、すでに「現段階で購買コストに限定しても2億5000万ドルもの削減に成功している」という。

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