友人によれば、ヒビのある枕木(以下、コンクリート製の枕木のこと)は、ゼロとのことでした。筆者自身も、JR武蔵野線とJR京浜東北線のある駅で、ホームの端から端まで歩いて枕木を観察してみましたが、確かに、ヒビの入っている枕木は皆無だったのです。割れやすいはずのコンクリート製なのに、どうしてでしょう?
甚さんは、良君に新型の「枕木」を設計させ、その理由を理解させようと考えたのです!
まずは、「6W2H」と「使用目的の明確化」を考えていきます。 表1は、良君が作成したコンクリート製枕木の6W2Hです。
良君! オメェ、腕を上げたな。感心、感心……。フムフム……さすが、富士山麓大 大学院卒じゃないか。
甚さんのおかげです。甚さんは、僕のような院卒がお嫌いなようですし、意地でも勉強しました。まあ、合コンにも行きたいけどさ……我慢、ガマンの子なのだ。
次は、良君の設計する枕木に関する「使用目的の明確化」です(表2)。
良君! 実によくできているじゃねぇかい。既存の枕木の『使用目的の明確化』だな。寿命は50年もあるのか? 車両も30トン以上あるんだな? オイラも知らなかったぜぃ。勉強になっちまったよぉ。
甚さんのおかげです。このように、設計に必要な案件を、後の設計審査のために、イヤ、そんな審査よりも設計者自身のために作成するんですね!
図面も描けなかったオメェが、上出来じゃねぇかい!
僕は、確かに甚さんがいうように“3次元モデラー”でした。“設計”ではなく、“造形”をしていました。アウトプットは、これというものがありませんでした。第三者の審査もまったくないのに、給与をもらっていました。でも、いまは、いまは……違いますよ!
さえまくる良君は、3次元CADに向かって設計に取り掛かります。そして、良君によって設計された新型枕木が以下の図2です。どうやら正方形を採用して線路の方向を選ばない工夫が施されているようです。
一方、以下の図3においては、割れやヒビを防ぐ目的でコンクリートの中に網目状の鉄筋を入れています。ちょっと、重そうですね。
……見掛け倒しでなけりゃいいがな。
むむ……。
それでは、既存のコンクリート製枕木がどうなっているのか分析してみましょう。図4は、既存のコンクリート製枕木です。
確かにヒビや割れさえありません。質量は、180〜220kgまでとのことです。搬出入は運搬機械を使いますが、実際に線路を固定する前段階では、4人ぐらいでの運搬、位置調整の作業になっています。作業性からは、もうこれ以上は重くはできないでしょう。一方、あまり軽い枕木では電車による振動や地震などで狂いが生じてしまいます。
ウーム! オメェの設計だとべらぼうに重過ぎじゃねぇかい? まあ、特許性はあるかもしれねぇがよぉ。
は! 作業性をまったく考えていなかった! ……ああやっぱり、僕は3次元モデラーから脱皮できないのか……。
しかも鉄筋は、コンクリートをつないでいるだけじゃねぇか。麺(めん)の卵つなぎと同じだってぇの。ちょっと麺のコシが強くなっただけだ。
ガックシ……。
ところでよう、オメェ『プレ・ストレッシング』って言葉を知ってっか?
プレッツェル……。
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