製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

タグチメソッドで品質向上の最適条件を見つける品質改善の王道を行こう(5)(2/3 ページ)

» 2008年12月12日 00時00分 公開

基本機能の研究

 ある製品のメッキ工程を事例に説明します。メッキ工程では、メッキの厚さの管理を、メッキ処理時間にて調整しています。すなわち、メッキ厚yとメッキ処理時間Mには、以下のような関係があります。


y=βM



 メッキ処理時間のような操作変数(入力)を信号因子M、そのときの特性値を出力y、比例乗数を感度βといいます。実際にはさまざまな影響により、上記の式のとおりにはいきませんが、タグチメソッドでは、この式を基本形と考えます(図2)。

図2 ゼロ点比例式 図2 ゼロ点比例式

 タグチメソッドでは動特性静特性の2つに分けて考えます。y=βMのように、入力を変化させて出力を調べる特性を動特性といいます。静特性は、入力を変化させないで出力を調べる特性をいいます。すなわち、目標値が一定の品質特性です。静特性は望大特性、望小特性、望目特性の3種類があります。

望大特性 非負の特性で理想値が無限大のものをいう。大きければ大きいほど良い特性値で、強度などがある

望小特性 非負の特性で理想値がゼロのものをいう。小さければ小さいほど良い特性値で、摩耗量、有害成分、真円度などがある

望目特性 目標値が有限値のものをいう。小さくても大きくても悪く、ある目標値に近いほど良い特性

 品質特性を静特性で考えがちですが、タグチメソッドは動特性の概念を取り入れたことが画期的な点です。結局、多くの機能は入力と出力の関係で表されますから、入力を変化させない静特性より、入力を変化させて出力を調べる動特性の方が、より安定な製品品質を志向した評価ができます。

 タグチメソッドは基本機能の研究を大切にしています。品質を改善したい対象工程の基本機能(y=βMの関係を考える)は何だろうと最初に考えることから始まります。事例は品質工学会の学会誌や専門書にたくさんありますから、ヒントが見つかるはずです。

SN比

 タグチメソッドでもう1つ重要な概念であるSN比を説明します。SN比とは、機能の安定性を評価する物差しです。具体的には、信号量Sと誤差Nの比です。単位はデシベル【db】を使います(通信工学で使うdBではありません)。

SN比

 つまり、SN比が大きいということは、バラツキが少なくて、安定しているということになります。すなわち、製造条件が少しくらい変動したとしても、出来上がる製品のばらつきは小さくなります。タグチメソッドでは生産現場にロバストネス(強靭(きょうじん)性:びくともしない強さ)の重要性を吹き込んでいます。

 ロバストネスを志向するため、実験の中に意図的に誤差因子を取り入れ、条件の変化を初めから考慮しています。誤差因子を入れたうえで、SN比の高い条件を選び、次に平均値(感度)を目標値に調整します。バラツキを抑えてから平均値を調整しようという考え方がタグチメソッドでは貫かれています。これを二段階設計法といいます。

 タグチメソッドの特徴をまとめると、

  • 動特性で考え
  • 誤差因子取り入れ
  • SN比で評価し
  • ロバストネスを志向する

ということになります。

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