在庫がたまり納期が遅れる理由〜「2つの勘違い」利益創出! TOCの基本を学ぶ(2)(2/3 ページ)

» 2008年02月25日 00時00分 公開

たくさん作れば安くなる?

 小説『ザ・ゴール』に、こんな場面がありました。3カ月以内に工場を立て直さなければ閉鎖すると宣告された主人公の工場長アレックス・ロゴは、工場には最高のNC機械もある、技術もある、さらに効率的なロボットもある……、いったい何が悪いのか見当がつかない状況に悩みます。

 そんなとき彼の大学時代の恩師ジョナから「君の工場は、設備やロボットが忙しく動いているのかもしれないが、工場全体の生産性は高くない。それは目的の設定が間違っているからだ」と喝破されショックを受けます。その後アレックスは工場の役割や目標について、徹底的に考えます。コストを下げることか、品質を向上させることか、生産効率を向上させることか、技術力を向上させることか……。

 そんなある日、工場近くの丘に登り、見下ろした倉庫には完成品が山積みにされていました。「われわれは在庫を作り、倉庫を満杯にするために生産しているのではない、売ることが目標なのでは? そして売るということは、お金をもうけることではないか。そしてお金を作るための行為は生産的で、反対にお金を作ることから遠ざかる行為は非生産的ではないか」と考えたのです。

 確かに売れないものは作らないというのは1つの理想型ですね。しかし実際に私たちは日常の仕事の中で、「お金を作ることから遠ざかる」行為を無意識のうちに行っています。ゴールドラット博士はその一番の元凶が個別原価計算という仕組みだと主張しています。なぜそうなのでしょうか?

 簡単な例で考えてみましょう。例えば固定給10万円で人を雇って、販売価格2万円、材料費1万円の製品を生産するケースを想定します(図2)。生産量が月10個なら1個当たりの製造原価は2万円ですが、月20個生産すれば原価は1万5000円に下がります。従って、月20個生産すれば1個当たり5000円の利益が残る計算となりますが、実際の需要が月10個しかなければ、手元の現金は10万円のマイナスになります。一方、売上高は10個作っても20個作っても一定の20万円です。変動するのは材料費の仕入れ金額のみです。

図2 個別原価計算の不可解な仕組み 図2 個別原価計算の不可解な仕組み

 これで利益計算をしてみるとどうなるでしょうか? 売り上げの20万円に対して、当月売上原価として計上されるのは、販売に対応した10個分の原価15万円のみで、計算すると5万円の利益が残ります。

 皆さんは「おかしいじゃないか、残った10個はどうしたんだ」と思われるかもしれませんね。しかしこれが企業会計の原則で、残った10個分の製造原価はバランスシート(貸借対照表)に「資産」として計上されます。このため、売れないのに増産しても売上原価は増えません。それどころか、極端な場合、需要が増えず、売り上げも増えてないのに増産することで、利益を増やす粉飾決算の操作にも使えるのです。

 この個別原価のパラダイムは実際の工場では部門別、工程別に実施されています。そうなると各部門は競って増産に走ります。これこそが一生懸命評価されようと頑張れば頑張るほど会社に損失を与えるという矛盾の元凶になっているのです。

 売れない在庫を作ってコストダウン(個別原価の見かけ上の低下)を達成しても、キャッシュフローは逆に悪化し、会社に深刻なダメージを与えることになります。これに対してTOCでは、工場での生産活動の目的を「スループットを増大させ、在庫を削減させること」と主張します。

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