スループット(T:Throughput)とは製品の売上高から原材料などの在庫・投資(I:Inventory & Investment)を引いたもので、製品を1つでも多く販売すれば、その製品のスループット分だけ全体のキャッシュが増加します。企業の最終利益は全製品のスループット総額から残りの支出である業務費用(OE:Operating Expense)を引いて残った額であり、スループット総額の最大化を目指せば企業が生むキャッシュも最大にできると考えるのです。
工場は原材料や部品を購入し、加工して最終製品に変換し、加工された製品を販売して売り上げを上げます。この仕入→加工→販売というプロセスはお金が「再生産」される課程でもあるわけです。
図3はT/I/OEがどのように生産業務の中に当てはまるかを示したものです。こうして考えてみると、スループット、在庫・投資、業務費用という尺度は、製造業にとって本質的なものであることが分かります。
工場はコストダウンや生産性向上で評価されるというのが、これまでの私たちの常識でした。生産性、収益率、回収、予算達成度、目標原価など、呼び方は企業によってさまざまですが、実態は同じ「たくさん作れば安くなったように見える」という原価計算のパラダイムに基づいた評価指標です。このパラダイムは「評価」と連動して企業の隅々まで根を張っている非常に厄介なものなのであり、単なる勘違いだけで済まされる問題ではないのです。
これまで見てきたように、
この一見何の関係もなさそうな2つの勘違いが、結果的にどのような影響を及ぼすのかお分かりになったでしょうか?
工場には原価計算から導き出された「皆が忙しく働かなくてはならない」パラダイムと、遅れから身を守る回避策の結果生じる「過負荷」という二重の「ボトルネック工程を生み出す仕組み」が存在しているのです。これに対処するために、生産管理の担当者はできるだけ余裕を持った投入指示を行います。しかしこれによってさらなる混乱を引き起こすことになります。日程管理を行う場合にどれだけ日程に余裕を持たせても、能力の余裕がなければ突発トラブルや、さまざまなばらつきには有効に機能しないということが分かったと思います。持つべき安全余裕は日程の余裕ではなく、能力の余裕だということなのです。皆が忙しく働けば働くほど、工場の効率は低下し、仕事は遅れるのです。
TOCは実学です。このような不確実な中で現在から将来のスループットをきちんと確保しなくてはならないのです。理想の議論に終始することなく、出発点は常に「現実」です。工程バラツキが存在することも、突発トラブルを想定しなくてはならないことも現実なのです。
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次回はこの工場の混乱に拍車を掛ける、人間行動「サバ」についてお話ししたいと思います。
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