第1回の記事で、PLMとは「顧客ニーズに合致した製品の市場への早期投入と、製品フェードアウトの遅滞ない意思決定を可能とするプロダクトライフサイクル全体を通じ、製品を軸とした統合マネジメントと企業内企業間コラボレーションの仕組み」と定義したが、その広範囲にわたるプロセスには、さまざまな関係部門や関係者が存在しており、統合したオペレーションの実施には、顧客ニーズに合致した新たな製品評価基準が必要である。
市場調査の結果を製品企画につなげ、技術仕様やデザイン、さらには広告展開など全般にわたる共通言語としての「評価基準=プロダクトDNA」の探査が必要な時代である。技術仕様やデザインの流行など、過去の経験や感覚的な判断ではなく、科学的な、再現性あるアプローチによって製品開発に取り組まねばならない。
近年、データベースの進化や分析手法の改良が進み、従来のデモグラフィック特性に加え、サイコグラフィック特性を製品開発、サービス、広告表現などにまで活用できるようになってきた。従来の製品開発の場面では、技術仕様先行でのDRが行われてきたが、あらゆる製品が汎用化する中で、顧客ニーズ収集の煩雑さから、ある意味で経験と勘で済ましていた部分こそ「らしさを取り戻す」重要な差別化要因として位置付けられよう。
顧客ニーズからどのようにプロダクトDNAを探査し活用するか、具体的な研究事例を筆者の過去プロジェクトから解説する。
まず、ある製品市場における複数製品の個々に対し、
という3つのカテゴリーからプロダクトDNAの探査に有効な因子を分析設定し、これに多変量解析の一手法である「数量化3類」の解析を施すことで、製品ごと、因子別に解析指定次数ごとの負荷量を算出する。
この負荷量を解析次数空間の相対的な座標値に読み替え、評価すべき次数軸の組み合わせ空間に因子あるいは製品をマッピング表示することで、因子相互、製品相互の相対的な位置関係を把握できる(図1)。
さらに、次数軸を共通とするこの因子マップと製品マップを透過評価することで、プロダクトDNAである因子の特定、製品のグルーピング、特性分析やポジショニング分析を実施し、製品の空白域、競合度合い、製品分布、製品群構成を把握できる。また、製品マップ上に販売実績であるデータをマッピングすることにより、市場分布、市場規模の検討、時間を追ってのデータの変移より売れ筋エリアの変遷、そのエリア内に位置する因子群より市場ニーズの把握を行う。
この売れ筋エリアに位置する製品は「市場性がある製品」と評価できるが、これが既存の自社製品にない場合は、エリア内の有効因子を具備する製品を企画することにより「消費者から、らしさの見える」製品の上市が可能となる。さらに、売れ行きの悪い既存製品に関しては、売れ筋エリアとの相対的距離、因子の差異が、製品の改廃検討に有効な判断値となる。
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この研究事例は、自社製品が保有するプロダクトDNA(有効な因子)を特定し、視覚化することで、従来、別管理になりがちであった既存製品と新製品を同じ評価軸で比較検討できるなどの具体的な成果だけでなく、既存の統計手法を採用することで、これまで経験と勘に頼っていたプロセスを、科学的なロジックで見直しすることの重要性など、本来PLMが目指すべきプロダクト管理の実現に一歩近づく糸口を提供してくれている。
大須賀賢二(おおすがけんじ)
戦略事業部ディレクター
法政大学経済学部卒。大手総合電機メーカー、マーケティング戦略支援会社、外資系コンサルティングファームを経て現職。上場会社を中心に新規事業・製品戦略、事業戦略、各種経営改革等のプロジェクトに従事。著作に「e生産革命」(東洋経済新報社刊)がある。京都情報技術大学院 非常勤講師(eビジネス:企業論、ビジネスモデル論)。各種セミナー講師など多数。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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