次の挑戦は物流領域、Telexistenceが見据える遠隔操作ロボットの可能性:サービスロボット(2/3 ページ)
遠隔操作ロボット「Model-T」を開発したロボットベンチャーTelexistence。同社は現在、ローソンやファミリーマートなど小売業界への遠隔操作技術の展開を積極的に進めている。遠隔操作ロボットにはどのような可能性があるのだろうか。また、Telexistenceは今後どのような事業展開を構想しているのか。同社の担当者に尋ねた。
遠隔操作ロボットが持つ3つの固有の強み
業務自動化を目的としたロボットは幾つもの種類がある。こうしたロボットに比べて、遠隔操作ロボットはどのような点に強みを持つのだろうか。村木氏は、これを「画像認識性の高さ」「高精度で柔軟な動作性」「環境への適応性」の3点にまとめる。
高い画像認識性
画像認識性を高水準で保てるのは、遠隔地にいる操縦者が遠隔操作ロボットに搭載したカメラを通じて目視で商品を確認できるからだ。AI(人工知能)を含めた既存の画像認識技術を使った場合、商品の認識精度が光の強弱で変わってしまうこともあり、認識精度を一定に保ちにくい。一方で目視であれば、こうした認識精度のブレを一定範囲内に抑え込みやすい。
この点について村木氏は「当社のアドバイザーに就任した東京大学大学院 工学系研究科 人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻の松尾豊教授も『よく取り沙汰されるフレーム問題*1)も、5年以内の解決見込みがない。画像認識の困難性に対して遠隔操作ロボットを用いるというアプローチは独特で、切り口は面白いと感じる』と評価してくれている」と自信を見せた。
*1)AIの情報処理能力の限界に基づく困難性を指摘する解決困難な問題
ティーチング不要で高精度かつ柔軟な動作
商品を「ゆっくりつかんで」「ゆっくりと置く」といった一連の動作を、高精度かつ柔軟に行えるのも遠隔操作ロボットの大きな利点である。「産業用ロボットや協働ロボットのように、ティーチングペンダントで動作やアームの軌道を細かく指定する必要がない。『置く』という動作を1つとっても、どこにどのように置くかを詳細に指定するのは難しい。思わぬ環境の変化に対しても、人間なら素早く対応できるのも強みといえるだろう」(村木氏)。
また、Telexistenceは将来的に、遠隔操作ロボットが生み出した動作の軌道データを蓄積し、教師データとしてAIに学習させることで、遠隔操作によらずに自動的に業務を行うロボットの開発も目指している。ロボットの動作を一から全て指定するよりも、人間による一連の完結した動作データを基に自動化を図る方が効率的な可能性が高いと村木氏は述べる。
小売業界以外にも展開できる、業務環境への適応性
作業環境への適応性も見逃せないポイントだ。遠隔操作ロボットはコンビニなどの小売業界以外の業種でも、設置スペースが確保できるのであれば広く展開できる可能性が高い。「労働集約的であり、人の動きをそのままトレースする価値がある業務であれば導入価値は十分にある。もっとも、事業の展開可能性ということを考えれば当然市場のパイが大きい業種が好ましい。そうした条件を備えた市場として、現在当社は物流領域に注目している。この領域は箱を開けて商品を置くという単純な動作も自動化できていない。小売店舗よりもスループットは早いが、遠隔操作ロボットの活躍が期待できる領域だ」(村木氏)。
一方で、課題もある。Model-Tは商品の陳列スピードがまだ人間の水準に達していない。Model-Tを使うと弁当やおにぎりの補充に1個当たり8秒かかるが、人間は同じ作業を5秒程度で終える。村木氏によると、これはハンド部分の性能に由来する側面が大きいという。「クレーンゲーム機ほど緩くはつかまないが、しっかりと重心を捉えて商品を把持するハンド」(村木氏)を開発することで、商品をゆっくり、しっかりとつかむロボットを実現するという。
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