次の挑戦は物流領域、Telexistenceが見据える遠隔操作ロボットの可能性:サービスロボット(3/3 ページ)
遠隔操作ロボット「Model-T」を開発したロボットベンチャーTelexistence。同社は現在、ローソンやファミリーマートなど小売業界への遠隔操作技術の展開を積極的に進めている。遠隔操作ロボットにはどのような可能性があるのだろうか。また、Telexistenceは今後どのような事業展開を構想しているのか。同社の担当者に尋ねた。
小売業界の次は物流業界の省人化へ
小売業界への展開を積極的に進めるTelexistenceだが、先述の通り、次の大きな事業の柱になる展開先として期待を寄せるのが物流業界だ。村木氏は「2021年中には業務要件とパートナーを決めて、2年後には事業としての立ち上げを目指したい」と展望を語る。
例えば、ソーティングシステムにおいて、箱を開封して商品をシステム上に展開する作業をModel-Tが担う。この他「ばらまき系のマテハンの役割も代替可能だ」(村木氏)という。ピッキング作業の場合は、ハンド部分にJANバーコードの読み取り装置を搭載しておけば、商品を正確かつ迅速に仕分けられる。トラックから積み荷を下ろして、台車に載せる作業も代替可能だ。
「工場内で自動的に動作するAGVなどのモビリティは非常に多い。しかし、AGVは棚の前まで行っても、積み下ろしや積み込みができない製品も多い。こうした作業は従来現場の人間が行っていた。このように、自動化してもどうしても人手に頼らざるを得ない業務領域を省人化するのが、Model-Tのような遠隔操作ロボットの役割と考えて居る」(村木氏)
物流は工場と異なり、人件費の安さを求めて海外に移転するというわけにはいかない。このため、従業員の交通費や社会保障費、福利厚生費などの間接費がかさみがちだ。Model-Tを使えば、人件費の安い地域で従業員を雇用して、物流倉庫で業務に従事させることも可能になる。また、人件費だけでなく、これまで地理的な要因で採用できなかったスキルフルな人材を積極的に採用しやすくなるというメリットもある。
村木氏はModel-T自体は既に完成しており、それを物流業界にピボットするだけなので、物流業界に合わせて専用の機体を1から開発する必要はないと説明する。ただし「ハンドやアームについては可搬重量の向上に取り組む必要がある。現在、Model-Tのアームは片手当たり2kgまでしか耐えられない。ピース単位の運搬ならともかく、これではケースの運搬は難しい。片手当たりの可搬重量を15kgにまで高めたい」(村木氏)とも語った。ただ、実際の業務要件に応じてハンドに求められる性能水準は変わるので、都度顧客と相談しつつカスタマイズ開発を行う必要があるとする。
これに加えて、移動機構の開発も課題となる。現時点では、AIで商品を画像認識して商品情報を特定し、あらかじめ登録済みの商品マスターと棚割りを自動参照することで、Model-Tを自動的に目的地へと移動、棚のゲートを自動的に開ける仕組みづくりを外部企業と連携して進めている。
「AIを使うのであれば、Model-Tの強みとしていた目視という特徴はどうなるのかと思われるかもしれない。ただ、やはり、商品のサイズ感や壊れやすさなど、モノを目視で確認することの大切さはどこの業種でも変わらない。商品情報の取得はAIやバーコード読み取り機で高速化し、それ他の情報取得は目視で行うイメージだ」(村木氏)
主要な顧客としては物流企業以外に、3PLや荷主、卸など幅広い層を想定する。事業規模の大小は、現時点では特に想定しない。
事業の開拓先を増やしても、最優先は「遠隔操作技術の高度化」
Telexistenceは現在、スーパーやホームセンターなど、小売店から導入に向けた相談を多数受けている状況だという。「国内における遠隔操作ロボットの普及可能性はとても高いと見ている。ボトルネックがあるとすれば、当社自身がModel-Tをどの程度大量生産できるか、という点に集約されるのではないか」(村木氏)。
今後のTelexistenceの事業展開について村木氏は「まずはコンビニを一丁目一番地と考えて、省人化、その先の自動化までしっかり取り組んでいく。日本のコンビニは世界的にも類を見ない店舗密集率と顧客の高回転性を特徴とする。ローソンだけではなくファミリーマートでも本導入に向けた試験を進め、他企業にも展開していく。技術的には可能なので、スーパーに展開する場合は総菜調理にも挑戦していきたい。その次に取り組むのが物流だ。小売り業界と物流業界の境界は不明確になりつつあるが、生産性向上にフォーカスした取り組みを進めていく。海外展開については、可能性としてはあり得る」と語る。
また、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業と提携して、Model-Tを用いたリモートワークへの展開も考えているという。体が不自由な人や、人とのコミュニケーションに不安がある人、いわゆる「ひきこもり」と呼ばれる人の社会活動を支援するといった事業を想定する。ただし、村木氏は「当社はそうした福祉的な貢献を第一に考えているわけではない。主眼に置いているのは、あくまで遠隔操作技術というコア技術の高度化と遠隔操作ロボットの可能性の追求だ」と同社のスタンスについて強調する。
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