第18回 日額単位で使える流体解析がモノづくりを変える!?:クラウドで進化するCAE
IT業界ではクラウド活用がもはや当たり前になっているが、CADやCAEといった設計開発ツール業界ではあまり利用されていない。そんな現状を打ち破る新たなソリューションがソフトウェアクレイドルと富士通の提携によって実現された。流体解析ツールを日額単位で使えるこのソリューションは、モノづくりを変えるきっかけになるかもしれない。
CAEの利用場面は着実に増えている。それとともに実際の使用形態に合わせたより柔軟性の高いCAEのニーズも高まっている。富士通のクラウド基盤「TCクラウド」も製造業のそういったニーズに答えるサービスだ。TCクラウドとは、富士通が2011年12月に提供を開始した、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けのクラウドサービスである。解析ツールの実行に適した、高性能なHPCプラットフォームをオンデマンドで利用可能だ。
富士通はHPCのハードウェアをベクトルプロセッサの時代から手掛けており、現在もスーパーコンピュータ(スパコン)「京」注)に代表される最先端製品を開発している。富士通 テクニカルコンピューティング(TC) ソリューション事業本部 HPCアプリケーション統括部 シニアマネージャーの大原敏靖氏は「これらで培ってきた技術を生かして、スパコンを簡単に所有できないような規模の企業や研究機関に、スパコンと同レベルのリソースを利用できるようにしたいという思いからTCクラウドの提供を始めました」と語る。
そんなTCクラウドだが、解析ツールを利用する場合、これまではPaaS(Platform as a Service)型による月額単位のサービスにとどまっていた。PaaS型とはミドルウェアおよびOSまでを富士通が用意し、解析ツールなどのアプリケーションソフトウェアはユーザー側が用意する利用体系である。このためユーザーからは「月額単位のレンタルライセンスと代わり映えがしない。解析ツールも含めて提供するSaaS(Software as a Service)型で日額単位のサービスを提供してほしい」という意見が多かったという。
富士通は2014年9月、解析ツールをSaaS型かつ日額単位で利用できるTCクラウドの新たなサービスを発表。そこで選ばれたのが、ソフトウェアクレイドルの流体解析ツール「STREAM」と「SCRYU/Tetra」だ。
注)スーパーコンピュータ「京」:理化学研究所と富士通が共同で開発したスーパーコンピュータ
互いの希望が一致
TCクラウドでSTREAMとSCRYU/Tetraを提供する理由について、富士通の大原氏はこう説明する。「ソフトウェアクレイドルは、1983年以来、国内で流体解析ツールを開発提供する数少ないベンダーの1つです。われわれのような電機系メーカーと付き合いの深いユーザーからは、構造解析だけでなく熱対策や流体の話が必ず出てきます。中でも名前がよく出てくる流体解析ツールがSTREAMやSCRYU/Tetraだったので、ソフトウェアクレイドルとは協力したいと考えていました」。
一方のソフトウェアクレイドルでも、ユーザーからクラウドを使った流体解析に対する要望が出始めていたという。同社営業二部 部長代理の吉川淳一郎氏は、「クラウドを使いたいというご意見だけでなく、開発のピーク時に解析のリソースを増やすため解析ツールを短期間使用したいという話がありました」と述べる。
しかし、CAEツール専業のソフトウェアクレイドルが、自身でクラウドを持つのは難しい。日額や週額といった短期間でのライセンス管理の仕組みを作り、それをクラウド上で運用するのはさらに困難だ。そこで、クラウドサービスを提供するためのパートナーとして選んだのが富士通だった。「富士通は、ユーザーからの要望が強まっていた当時からTCクラウド上で日額のサービス提供を試験的に始めていました。提携を打診したところ、具体的な状況説明もいただけたので、これなら行けそうだと考えました」(吉川氏)。
クラウドサービスと短期間でのライセンス提供のためにパートナーを求めていたソフトウェアクレイドル。そして、TCクラウド上でサービスを提供できる解析ツールを必要としていた富士通。互いの希望が一致したことによって、STREAMとSCRYU/TetraをSaaS型かつ日額単位のサービスとして利用できるようなったわけだ。
発表から間もないもののユーザーからの反応は上々だ。既に、TCクラウドのユーザーからも反響が出ており、正式な受注が入っている他にも、トライアルや見積もり検討の数はかなり多いという。富士通 TCソリューション事業本部 HPCアプリケーション統括部の山下精視氏は、「最も評価が高いのは、開発ピークに対応できる点ですね」と説明する。「投資コストのことを考えると、開発ピークに合わせて解析のハードウェアやライセンスをそろえておくわけにはいきません。だからといって、開発期間の短縮が進む中、解析環境への投資を抑えると開発が遅延してしまいます。クラウドの利用を考える方は、できるなら短期間にパッと解析ジョブを流したいという要望が多いですね」(山下氏)。
TCクラウドのSaaS型利用では、ハードウェア、OS、ミドルウェア、アプリケーションソフトウェアの全てが用意されている。このため、ユーザー側で新たにSTREAMやSCRYU/Tetraを入手したりインストールしたりする必要がない。
利用価格は1ノード/1時間当たりで300円〜となっている(図1)。契約時にIDなどが用意され、SSH(Secure Shell)を用いて暗号化を行いインターネットを経由しブラウザ上で利用する。使った時間やコア数などの情報はミドルウェア経由で収集され、月末に集計して精算される。
ユーザーインタフェースはブラウザベースのものを用意している。STREAMやSCRYU/TetraをLinux上のコマンド入力で実行しているユーザーにとっては、グラフィカルで使いやすくなるという。GUIで利用するWindows版ユーザーにとっては、見掛けは異なるがコマンド入力が不要で、違和感なく使えるとしている(図2)。さらに、結果をすぐ可視化するための高度な仮想デスクトップ「FTCP Remote Desktop」も備える(図3)。
CAEのクラウド活用で何が変わるのか
ソフトウェアクレイドルの吉川氏は、ソフトウェアベンダーの立場から、設計者にも使える新たなCAEツールの仕組みが必要だと主張する。「かつては、CAEツールを使う手順などを簡単にすることで、設計者にもCAEを使ってもらえるものだと考えていました。しかし、設計者というのは設計に必要な情報しか扱わないのが一般的です。解析もやる設計者というのは、半ば設計部門における解析専任者のような存在になっていることが多いのです。そういった多くの設計者に解析を活用してもらうには、解析作業をある程度パターンに落とし込んだ上で、設計者は自身が扱う数値を入力するだけで解析を自動で行えるような仕組みが必要です。当社の解析ツールはそういった仕組みを乗せられるのですが、設計者にとってより身近な存在になるであろうクラウドサービスでも同様のことができるようにしなければならないと思っています」(吉川氏)。
一方、クラウドプラットフォームを提供する富士通の大原氏は、ソフトウェアベンダーとの協力が重要だと考えている。「CAEで解析できる現象の種類は増えています。それとともに、専門家だけが行っていたような解析も、設計者が行うようになっていくものと思われます。そしてそれを解くためには、ある程度の計算機パワーが必要になってきます。そういった処理能力を持つハードウェアを誰もが所有するのは現実的ではありません。クラウドによるサービス提供はそういったところで力を発揮します。」(大原氏)。山下氏も、「設計者は設計に関連する業務に専念するべきで、解析に必要なハードウェアの運用や維持管理といったことに関わらない状態が望ましいはずです。その実現は、われわれが提供するサービスの充実に掛かっているのではないでしょうか」と強調する。
クラウドを使ったCAEサービスの新たな手法で先鞭を付けたソフトウェアクレイドルと富士通。これをきっかけに、モノづくりの手法も変わっていくかもしれない。
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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2014年12月17日