第4回 客観的に解析結果を評価できる環境の構築がカギ(後編):拡がる電子機器設計の熱対策
電子機器向けの熱流体解析でよく使われるソフトの一つが、ソフトウェアクレイドルの「熱設計PAC」である。同ソフトを使って大きな成果を得ているのが、ビジネスホンや各種ネットワーク機器を手掛けるサクサだ。前編では、同社が熱解析ソフトの導入にいたった背景や、ソフトの選定、それを活用するための準備について聞いた。後編では、実際の活用方法や、得られた成果を報告する。
設計の初期段階から熱解析を導入
サクサでは2009年9月に熱設計PACを導入した。事前のワーキンググループによる念入りな準備のかいがあって、活用はスムーズに始まったという。同社では同ツールを構想設計、詳細設計、量産設計の3段階で活用するよう定めている。「まず構想段階での解析が重要」(サクサ 開発本部 機構開発部 部長の原 耕一氏)だという。この段階ではハードウェアの条件はまだはっきり決まっていないが、おおまかな装置外形および内部の基板レイアウトを基に解析し、熱問題の起こりにくい形状の目安を立てる。それを設計条件としてハードウェア開発部に伝え、回路を設計してもらう。続いて詳細設計の段階では、回路設計および筐体設計データを取り込み、高い精度の解析を実施した上で、製品試作を行う。最後に量産金型を作るとともに最終的な解析を実施。そして量産試作を行い、実試験による熱データを得て、シミュレーションと比較する。実測値とずれていれば原因を確認し、次の解析にフィードバックして、ノウハウを蓄積し、精度の向上に役立てている。
図2はICカードを利用して個人認証を行う製品「カードターミナルCT600」で、図3が同製品の熱解析を行った例だ。熱設計PACで対流が起きて放熱できるかチェックしながら、通風口の位置や数などを決定した。
試作後の手戻りがゼロに
熱解析ツールを活用することによって、サクサではさまざまな効果が出ている。最も大きいのが、量産試作後の設計への手戻りがなくなったことだ。「今のところ解析精度が期待通りに出ているので、熱による問題は試作後には発生していません」(鈴木氏)。構想段階での解析によって、明らかにハード側で対策すべき問題をあらかじめ見つけて調整できるのも、おおいにプラスになっているという。以前は量産の時点で熱の問題が見つかり、断熱シートやヒートシンク、放熱シートといった部材を追加した上に、金型の改造費がかかってしまうといったことがあった。「この場合、金額面だけでなく、手戻りに伴う工数の増加もかなりのものになります。上流で解析することによって、こういった無駄な手戻りや費用がなくなるのです」(原氏)。
また熱解析ツールの導入は、部門間で協力して熱問題に取り組む上でプラスになった。熱問題は従来、機構開発部で対処してきたが、実際にはさまざまな要因が絡み合っている。ツールで解析することによって、高温になる原因と、その対処はどこですれば一番効率的かを論理的に示すことができる。熱解析ソフトを使うことによって説得力が増すとともに、熱解析の結果データがハードウェア設計とのコミュニケーションツールの役割も果たしているというわけだ。
積極的な取り組みとツールの使いやすさが成功のカギ
このように熱解析ツールがうまく定着した理由には、まずワーキングループがきちんと機能したことが挙げられるだろう。ワーキンググループのメンバーが日ごろ熱問題に向き合っていた本人たちだっただけに、根本的に解決しなければ将来さらに大変になることが予想でき、問題への取り組みも真剣だった。その結果、初期段階からの解析の実施や、客観的に解析結果を分析するための記録レポートなどといった仕組みが作られた。
また、ワーキンググループの取り組みを社内全体に報告する機会を持てたことも、成功の一因だったという。サクサでは同社の技術部門が集合して、日ごろの取り組みをアピールする「相模原フォーラム」というイベントがある。このフォーラムで、ワーキンググループは解析を実施する計画を発表した。その後、短期間で成功例を発表することができた。これによって、解析すれば問題を事前に解決できるということが社内に認知され、ますます活動しやすくなったのだという。
一方ツールの使い勝手の良さも、解析が根付いたポイントだということだ。解析を行うメンバーは設計がメインのため、熱流体に関する勉強の時間はあまり取れない。それでも熱設計PACは、設定さえ間違えなければメッシングおよび解析の時点でエラーなども起こらず、うまく使いこなせるという。設計業務の合間に行うだけに、エラーが頻繁に起これば使うのが面倒になってしまう。その点で熱設計PACはトラブルがなく、設計メンバーにとっても自然に受け入れることができた。
今後はさらに解析の設定値を見直して精度の向上を目指すという。また基本的な熱解析で高い成果が出たため、さらなる解析の応用も検討中である。サクサでは車載製品や屋外設置機器もあるため、雨水や日射に関する解析にも取り組んでみたいとのことだ。熱設計PACの上位バージョンであるソフトウェアクレイドルの汎用熱流体解析ソフト「STREAM」を検討しているという。
サクサでは使いやすく現場に合ったツールを選び、それを活用するための土台作りをしっかり行ったことで、短期間で成果を上げることができた。同社の取り組みは、同じように熱対策に悩む企業にとっておおいに参考となるだろう。
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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日