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第10回 「作らずに創る」を実現する大規模流体解析流体解析ツールユーザーが集結するカンファレンスより

全国の流体解析ツールユーザーが、東京と大阪に一挙集結。過去最大規模となったソフトウェアクレイドルのユーザーカンファレンスでは、ソーラーカーレース世界チャンピオンの東海大学ソーラーカーチームや事務機メーカー リコーの複写機の事例などが発表された。大規模な流体解析で実用的な結果が素早く得られた理由についても語られた。

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 2012年10月19日、22回目となるソフトウェアクレイドルのユーザーカンファレンスが開催され、過去最大の約350人が参加した。さらに、今年は初めての試みとして、大阪サテライト会場でも講演を同時放映した。これは、東京以外での開催を求めるユーザーの声に応えるもの。基調講演を手始めに、各セッション後には東京会場だけでなく、大阪会場とも場所を超えた積極的な質疑応答が交わされた。


カンファレンス会場の様子

世界大会で3連覇したソーラーカーチームと流体解析

 同カンファレンスは、東海大学工学部電気電子工学科教授で東海大学ソーラーカーチーム監督の木村英樹氏の基調講演でスタートした。


東海大学工学部電気電子工学科教授、東海大学ソーラーカーチーム監督 木村英樹氏

 同チームは、東海大学チャレンジセンターのライトパワープロジェクトの一環として、学生たちの社会的実践力を育成している。同チームは1992年に発足。由緒ある国際レースの常連でもある。木村氏は、この成功の背景となったさまざまな技術開発の内容を説明する中で、特に空力開発の分野における「SCRYU/Tetra®」の活用を紹介した。車体の不安定さに影響を与える揚力をゼロにするためのボディ形状の検討に役立てた。車体下部の形状によって発生する空気抵抗を抑えるための検討では大きな効果があったという。

 同チームは、昨年、今年とオーストラリアの「Veolia World Solar Challenge」で連覇、南アフリカの「Sasol Solar Challenge South Africa」では3連覇の偉業を成し遂げた。

「作らずに創る」――大規模化する複写機の流体解析

 この後、輸送機械、機械、電気電子、建築土木などの分野のユーザーによる発表が2つの会場に分かれて行われた。ここではその中から、リコー デジタルエンジニアリングセンター 技術開発室 首藤美和氏による事例講演「紙による熱輸送を含む複写機本体全体モデルの流体解析」の内容を紹介する。

リコー デジタルエンジニアリングセンター 技術開発室 首藤美和氏

 今回紹介された同社の「MFP(Multifunctional Printer)」の構造は非常に複雑であり、数多くの発熱源があり冷却が求められる箇所が多い。その冷却のために多くのファンが搭載されていて、気流の流れや伝熱経路も複雑である。また、昨今では設計業務自体も3次元CADを使うことが中心になってきているため、シミュレーションに対する期待も高まってきている。

 同社は、モノを作る前にデジタルデータでできる限り検証し尽くす「作らずに創る」という開発コンセプトを掲げる。その一環として、3次元CADデータを丸ごと用いたMFP本体全体にわたる解析を実施している。そのモデルは非常に大規模で、計算負荷も高くなる。MFP本体の3次元モデルには、小ネジや厚さ0.1mm程度の小さな部品、微小なすき間などが多数存在する。それらの形状の細かい箇所まで1つ1つ修正しようとすれば、膨大な手間と時間がかかり、現実的ではない。形状に合わせて無理にメッシュを切れば、メッシュの品質を低下させてしまう。そこで、活用したのが、従来の熱流体解析で使用されてきたボクセルメッシュである。形状をクリーンアップする代わりに、ボクセルメッシュを細かくすることで形状に追従させた。

 近年、計算機のパフォーマンスが向上しているため、それが十分に現実的手段になってきた。MFPの解析モデルはメッシュサイズが1〜2mmで、1億3000万メッシュ程度ある。その場合においても、24CPUのマシンで、流体解析ソフトウェア「STREAM」を活用することで、MFPの解析準備から完了まで1、2週間程度で済むようになったという。さらに、誰がメッシュを切っても同じ質の解析が可能という利点もある。特に、部品形状を差し替える場合においては、前処理が数時間で済むため、プロセス全体の所要時間も短縮できる。

 MFPでは、紙やベルトのような固体も熱を輸送する要素となる。両面印刷をする際には、まず片面にトナーを定着させる。そのために定着ユニットを通過して温まった紙が、裏面印刷で再度転写部に戻る過程で、機内の温度を上昇させる。今回のシミュレーションでその再現を目指したのは、この移動体の熱輸送の挙動である。その解析モデルは、定常解析で移動体の熱輸送を扱えるようにした。具体的にいえば、メッシュを移動させずに、熱量だけが紙の中を移動する設定である。

 計算結果は、実測値と解析値との差異が最大でも13%以内に収まっており、現実的な期間のうちに、十分実用的な解析結果が得られたということだ。3次元データを活用した開発プロセスを確立し、実験では捉え切れない現象もSTREAMをうまく活用することで検証できたことも報告した。

2013年春に、新バージョンの機能を活用した事例報告会を開催

 カンファレンスでは、ユーザーからの事例発表に加えて、ソフトウェアクレイドルから新製品の概要についての紹介もあった。2012年11月には、同社の熱流体解析ソフトウェア「STREAM」「熱設計PAC」「SCRYU/Tetra®」のV10や、CAD・CFD形状データトランスレータ「CADthru」V5.1のリリースが予定されている。各製品に共通する新機能としては、主要CADとのインタフェース強化、解析の大規模化への対応といった、ユーザーの開発プロセスの強化にかかわるエンハンスメントや、輻射(ふくしゃ)グループの最適化、発散の検出といった多様な解析機能の強化が図られた。2013年の4月頃、ユーザーに向けて新製品の機能活用事例についての報告会を予定している。なおV10についてはホームページからのダウンロードという形でリリース予定だ。

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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2012年12月11日

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