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第7回 ファンを含めた解析を実施、結果は多方面に活用(前編)拡がる電子機器設計の熱対策

ファンは電子機器の熱流体解析の中でも比較的、難易度の高い部品とされる。なぜなら可動部品のため、流れが非常に複雑になるからだ。そこで今回は、通常の電子機器はもちろん、スパコンなどをはじめとする特殊な製品に向けたファンモーターで高い実績をもつオリエンタルモーターに、ファンを取り巻く流体熱解析の現状や、ファンの設計事例、解析結果の有効な活用方法などについて聞いた。

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 オリエンタルモーターは、精密小型モーターをはじめとする各種モーターやその制御回路を含むトータルなシステムを開発、製造する企業だ。産業機械をはじめ理化学機器や医療機器など幅広い分野に製品を提供している。その中でファンモーターの開発を中心とした熱対策を受け持つのが、TM(thermal management)事業部だ。パソコンなどをはじめとした電子機器全般に使われるプロペラファンやブロワ、クロスフローファン、そして熱対策のトータルシステムを提案する。同事業部が得意とする製品の一つが、スパコンなど特別な製品に向けたファンモーターだ。オリエンタルモーターは従来から産業機械用など多品種少量型の製品を迅速に開発、製造する体制を整えてきた。そのノウハウの蓄積がファンモーターでも活かされている。

ファンへの流体解析適用の背景

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伊藤孝宏氏
オリエンタルモーター株式会社
TM事業部
主席研究員 博士(工学)

 さまざまな回転翼に対する流体工学の取り組みは以前からあった。とくに船舶のスクリューや風車の羽根など、大型の製品には早くから流体解析が活用されてきた。こういった製品を扱う重工メーカーは自社でプログラムを開発することが多い。しかし電子機器などに使うファンへの流体解析の取り組みは遅かった。まず、大型の回転翼の解析手法を単純に適用できないという背景があった。羽根の周囲を流れる流体は羽根の形状通りには流れず、羽根から少し離れた状態となる。その羽根から離れる状態や流れの様子は、羽根のサイズが、数センチメートルのファンと1メートル近い大型の送風機とでは大きく違う。そのため、流体機器を設計する者にとっては、両者は「全く違う世界を見ている」ようなものなのだ。また、電子機器用のファンは数多くの電子機器を構成する部品の一つにすぎず、電子機器メーカーはファンのためにお金と時間を掛ける余裕はなかった。そのためファンの設計・開発やファンを用いた熱設計は、試行錯誤や経験に負うところが大きかった。

 以上のような背景により、オリエンタルモーター TM事業部 主席研究員の伊藤孝宏氏がファンの設計に取り組み始めた1988年ごろは、この分野における論文がほとんどないという状態だった。

地球シミュレータ用ファンを開発

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図1 初代「地球シミュレータ」に使われたファンと同等の標準製品「MRS25」
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図2 地球シミュレータに採用された製品の流体解析画像

 伊藤氏はファンの開発のエキスパートだ。同氏がオリエンタルモーターで開発した製品の一つが、海洋研究開発機構の気候予測などに活用されるスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」(参照1)用のファンだ。地球シミュレータは100×140×200cmの計算機が、体育館のような広い部屋に400台ほど並ぶ。地下に冷却のためのエアコンルームがあり、計算機1台につき6台ほど搭載されたファンが冷気を吸い上げて上へと送る仕組みだ。そのため合計2400台ものファンが使われることになる。地球シミュレータを開発したメーカーでは水冷方式を採用せず空冷方式にこだわったため、ファンへの性能の要求も半端ではなく高かった。中でも大変だったのが、2400台ものファンが出す音に対する要求だ。当時、オリエンタルモーターには、音はもちろん熱流体の解析ツールもなかった。そこで樹脂を造型材料とするラピッドプロトタイプマシンを使って試作品を作り、P-Q特性や音の測定を繰り返した。開発には通常の製品であれば数種類の試作で十分なのが、地球シミュレータ用の製品では60種類以上の試作を行い、開発に半年を費やしたという。完成品は縦横25cmで通常のパソコン向けファンの40倍以上の風量を持つ。現在その製品と同じ型のものが「MRS25」として販売されている(図1、図2)。半導体検査装置向けの高い計算能力が必要な専用コンピュータや、風力や太陽光発電用のインバータ用など、大風量が必要な場所で活躍している。

可視化の重要性から解析ツールを導入

 地球シミュレータ用のファンを開発した当時はシミュレーションソフトがなかった。トライアンドエラーの繰り返しから得た経験は貴重だったものの、大変な作業だったという。その中で特に感じたのが、流れを可視化することの重要性だ。望んだとおりの製品ができなければ原因を考えるが、流れが見えなければ考察のしようがないからだ。直接流れを見るのが理想ではあるものの、流れの計測装置は高価であり、羽根の隙間まで見るのはさらに難しい。そこで伊藤氏はまず、当時約200万円まで価格が下がっていた大学発のシミュレーションソフト「PHOENICS」を採用。電子機器の熱設計ではそこそこ威力を発揮し、顧客にも喜ばれた。しかしファンに対しては不十分だった。メッシュの滑らかさが足りず、ファンに起こる現象を予測できるほどのレベルではなかったのだ。時間を掛ければ細かいメッシュも作成できたものの、当時メッシュを切るのには専門家でも2週間かかると言われており、とても現実的ではなかった。

当時初の非構造格子の自動メッシュ分割

 そんなときに出会ったのが、ソフトウェアクレイドルの非構造格子系汎用熱流体解析ソフト「SCRYU/Tetra」だった。初めて使ってみたとき、自動であまり手を掛けずに滑らかなメッシュを切れることに感動したという。当時、メッシュ生成専用のソフトウェア以外で自動で非構造格子を切れるソフトはほかに存在しなかった。そこで伊藤氏はSCRYU/Tetraを採用することに決めた。

 同ソフトはCADから読み込んだモデルを境界条件や動作部分などを設定すると、1時間ほどでメッシュまで切れる。その後の計算も2時間くらいで終わらせることができた。条件を変化させての計算プログラムも組むことができたため、自動で条件を変化させて計算させることもできるという。また伊藤氏が扱うファンのほかにも、燃焼や化学反応など、特殊な条件も扱うことができる。

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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日

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