第11回 ポンプの理論・性能と設計の基礎:設計理論の基礎をしっかり学ぶ
省エネニーズの高まりを受け、いかに効率のよいポンプを設計するかが業界の関心を集めている。また、機器の冷却要求の高まりからポンプの活躍の場も広がっている。そんな中、ポンプの専門家を講師として招き、ポンプ設計の理論を基礎からしっかり学べるセミナーが大阪で開催された。
第一線で活躍する専門家を講師として招き、設計理論の基礎を純粋に学べるセミナーが"無料"で受講できる――。ソフトウェアクレイドルが2012年の6月から始めているセミナー「フェードイン! 設計の基礎が見えてくる」が、業界の注目を集めている。第1回は「送風機」、第2回は「グリーンデバイス(熱設計)」をテーマに、大阪で開催された。
企業による無料セミナーは数多く実施されているが、その内容には自社の製品をアピールする場が盛り込まれているのが通例だ。その中で今回のセミナーシリーズが注目されているのは、3時間を超える充実した内容が、初めから終わりまで純粋な設計理論の講義で構成されている点。製品紹介は一切しないのはもちろん、製品分野に関連する内容(同社の場合は「解析」など)にもフォーカスしないという、「設計理論をしっかり身に付けるためだけのセミナー」になっている。会場では製品パンフレット配布まで行わないという徹底ぶりだ。
ソフトウェアクレイドル 営業1部 部長の福森利明氏は、今回のセミナーについて「来年30周年を迎える当社の記念事業の1つで、製造業の皆さまに感謝を込めた催し。商品紹介は一切せず、設計理論をあらためて整理して学んでいただこうという場を提供したかった。われわれ自身も設計理論を学ばせていただき、より使いやすいソフトを提供するきっかけになればと考えている」と語る。
先月2012年10月26日に第3回として開催されたセミナーのテーマは「ポンプ」。省エネニーズの高まりを受け、いかに効率のよいポンプを設計するかが業界の関心を集めている。また、機器の冷却要求の高まりからポンプの活躍の場が広がっており、今回のセミナーにもポンプ製造メーカーだけでなく自動車関係や重工業関連、エレクトロニクスメーカーなど、さまざまなユーザーが集まった。
ポンプ講座――理論・性能と設計
「ポンプの理論・性能と設計に関する基礎講座」と題して行われた今回のセミナーに登壇したのは、早稲田大学理工学術院 基幹理工学部 機械科学・航空学科 教授の宮川和芳氏。2011年から現職に就いている同氏だが、それ以前は三菱重工業 高砂研究所で20年以上研究を続けてきたポンプ設計の専門家だ。
宮川氏はまず冒頭で、流体を表す特性数で特に重要なものとして「レイノルズ数」「フルード数」「ストローハル数」の3つを挙げ、中でもレイノルズ数がポンプ設計で一番重要である点を指摘した。
慣性力と粘性力との比で定義されるレイノルズ数は、その値の違いを自然界で観察できる。「同じ流体中を動く生物でも、レイノルズ数はゾウリムシが0.1でイルカは3×107とまったく違う。例えばゾウリムシにとって、水はあたかも水飴と同じように大きな粘性の影響下で運動することになるため、繊毛を動かして移動する繊毛運動が有効となる。一方、イルカは粘性よりもむしろ慣性の影響が大きな流体中で摩擦ロスの極めて少ない肌を持って慣性力を生かした泳ぎ方を行う」(宮川氏)。
では大型ポンプのインペラ(羽根車)はどうかというと、長さ5メートルほどの大型インペラの場合、レイノルズ数は5×108となり、イルカの世界に近い値になってくるという。「このようにポンプの流れ場は、粘性力の高さを生かして移動するゾウリムシのような世界ではなく、慣性力を生かしたイルカの世界に近いことが分かる。慣性・粘性の比というのは、ポンプ設計では非常に重要」(宮川氏)。
続いて宮川氏は、ポンプの分類を形式・特性・構成要素の観点で説明した後に「ポンプの理論」へと進んだ。
宮川氏は、絶対流速と相対流速の関係を示した「速度三角形」がポンプ設計で一番重要であると述べる。
「雨が降っているときに電車の窓に流れる雨は、止まっているときは真下に流れるが、電車が走り始めると斜めに流れて、速度との関係が三角形で表される。速度三角形はそんな簡単な理屈なのだが、これがポンプ設計の根幹を成す。この速度三角形によってさまざまなことが分かる」(宮川氏)。
続いて「Eulerの法則(角運動量理論)」の説明や、流体が羽根(動翼)を通過する際に受け取るエネルギー内容の計算式、動翼効率/静翼効率などを説明。そして流体機械における相似則、比速度、揚程理論などが数式と図で詳細に解説された。
また「内部流れと性能」のパートでは、性能(特性)曲線の説明や、設計点・非設計点の内部流れとポンプ性能の関係について語られた。
「キャビテーションと対策」のパートでは、ポンプの騒音・振動・壊食の原因となるキャビテーションの発生理論やその種類、発生によるデメリットなどが宮川氏から詳細に語られた。
続いて「不安定現象と対策」のパートでは、ターボ機械が設計点以外で運転されたときの設計運転状態とはまったく異なる特異現象「低流量域特性」のさまざまなバリエーションについて説明。特に低流量域で発生する圧力・流量の大きな変動現象である「サージング」は留意すべき不安定現象として詳細な解説とその防止法が語られた。
最後に宮川氏は、ポンプ開発におけるCFDの適用のメリットについて説明した。
「CFDで羽根の設計や非定常の内部流れを求めたり、キャビテーションの解析などが可能となってきている。いま、計算機の性能が飛躍的に向上しているのでシミュレーションは絶対に有効であり、取り組むべき。ポンプの一体解析や動静翼列干渉の解析、ポンプの流量が少なくなるとインペラで発生する逆流点の予測なども簡単に行える。このインペラの逆流は騒音の原因になるので、どこで発生するのかは重要なポイントになる。近年注目されている最適化にもCFDは役立つ」(宮川氏)。
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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2012年12月18日