第5回 カーナビ設計で設計者による熱流体解析の定着に成功(前編):拡がる電子機器設計の熱対策
カーナビやカーオーディオなど、車載機器を専門に開発するアルパイン。同社ではカーナビの筐体の放熱設計において、設計者自身が熱流体解析ツールを活用している。導入後10年を迎え、いまや自動車メーカーとのビジネスの引き合い段階から熱解析を行うなど、身近なツールとして定着した。この状況にたどり着くまでに、同社ではどのような取り組みを進めてきたのか。詳細について担当者に話を聞いた。
アルパインは本社を東京都品川区、開発拠点を福島県いわき市に置き、車載音響機器や車載情報通信機器など、車載専用機器を開発する企業である。海外にも販売、生産、開発拠点を置き、グローバルに企業展開をしている。また自動車メーカー向けの純正品の割合が高いことも特徴だ。同社の提供するカーオーディオは、音質にこだわるユーザーに評判が高い。一方カーナビについても、2010年の発売当時最大である8インチの画面サイズのAV一体型カーナビ「ビッグX(VIE-X088)」(図1)や「VIE-X08S」が好調な売れ行きを示すなど、高い評価を得ている。
熱流体解析ツールの導入は2001年
カーナビの筐体設計を行う同社機構製品開発部では、2001年にソフトウェアクレイドル社製の熱流体解析ツール「熱設計PAC」を導入した。熱解析ツールを導入した理由は、車載機器に要求される動作保証温度の高さにある。車載機器は家庭用の電子機器製品と違って、直射日光にさらされるなど厳しい環境に置かれる。動作保証温度は家電よりも数十℃高く、熱解析ツールの導入は必然だったという。はじめから設計者による熱流体解析ツールの使用を想定していた同部では、操作のしやすさやGUIの見やすさなどのメリットから、熱設計PACを導入することにした。
熱流体解析ツールの設計者展開を本格的に開始したのは、2004年ごろからだ。放熱設計を担当する機構製品開発部の岩崎真知子氏が設計者展開に一貫して取り組んできたという。
熱流体解析の教育環境を整える
設計者に熱流体解析ツールを展開するため、同部ではまず教育システムを整えること、そして解析ツールを手軽に使える環境を整えることに取り組んだ。
教育システムについては、2005年ごろ、集合教育プログラムの立ち上げを開始。ソフトウェアクレイドルと共同で、アルパイン専用のテキストを作るための準備を始めた。プログラムを作成する際に、岩崎氏はいくつかの目標を立てた。それは、実践的ですぐ設計現場で使える内容であること、またすぐ忘れるような内容ではなく設計者の身につき、その設計思想を土台に設計業務をこなすことで継続してスキルアップできる内容にすることだった。そのため、講義はよくある外部の講師が来て一般的な操作方法や情報を伝える形ではなく、アルパインの製品をモデルケースとして使い、同社に必要な情報を提供するようにした。また熱流体の基礎を理解したうえで解析ツールを使いこなせるよう、理論からしっかりテキストに盛り込んだ。ソフトウェアクレイドルのエンジニアの協力を得て、何度も打ち合わせを繰り返しながらテキストと講習内容を完成させたという。内容は、熱流体の基礎知識、解析理論、解析の準備や結果の表示など操作手順、そしてアルパインの放熱設計の考え方といったものだ。講習後たとえ操作方法を忘れても大丈夫なように、テキストはしっかりと作り込んだという。
集合教育プログラムは、1回につき最大8人が3日間、ツールを操作しながら講習を受けるという形で行った。最終日には実際の製品の熱問題を題材とした修了試験を出題し、解答納期を一週間後に設定。この間受講者に実務を想定したトライアンドエラーを経験してもらうことで、教育内容の定着を図った。これを年に2回程度のペースで実施。現在、機構製品開発部で熱設計に関わる社員のほぼ100%が講習を受けて実務で活用している。関連会社のメンバーも、このプログラムを受講しに来たという。2008年には中国の技術拠点の解析専任者も講習を受け、テキストを翻訳して現地で熱設計PACの設計者展開を行った。
プログラムの内容は毎回ブラッシュアップしていった。プログラムが1回終わるたびに、項目ごとに5段階評価などのアンケートを実施。初回は平均が3.6点だったが、一番最近のものでは4.7点にまで上がった。「ソフトウェアクレイドルさんにアドバイスをもらいながらこのプログラムを作り込んでいく過程で、アルパインとしての熱設計思想の基礎部分が確立されていきました」(岩崎氏)。
解析ツールを簡単に使える環境を整備
解析ツールを使用する環境についてもさまざまな取り組みを行った。具体的には、解析作業がしやすいように専用のインタフェースを用意したこと。また解析結果や製品の温度などの実測値、報告書などを蓄積するデータベースの仕組みを整えたこと。さらに解析専任者でなくてもすぐ理解できるような解析結果の表示システムを用意したこと。また電気回路設計と機構設計との解析データのやり取りがスムーズにいく仕組みを作ったことだ。
インタフェースおよびデータベースについては、電通国際情報サービスのWebをインタフェースとしたCAE統合ツール「CAE-ONE」を利用している。計算部分は、熱設計PACの上位版である「STREAM」の並列計算(HPC)版をLinuxのクラスタサーバーで運用しているため、Windows版のようなGUIがなく、使いやすいインタフェースが必要だった。そのためWebベースのインタフェースを持つCAE-ONEを導入。解析者が解析に必要なデータファイルを同ツールに登録すれば、並列計算システムに送られる。計算が終われば結果が同ツールに格納されるとともに、解析実行者にメールが届くようになっている。CAE-ONEはデータベースの機能も持っており、熱流体解析の結果だけでなく、同部で実施している各種解析に関するデータも蓄積している。また解析結果だけでなく製品の様々な実測データ、そして解析結果の報告書も管理している。(続く)
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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日