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第14回 解析結果を過信しないで自分で判断! 送風機設計における流体解析流体解析では実験の経験も大事です

流体解析では、解析結果を過信せず、“自分で”正しいかどうかを判断することが大事。そのためには実験の経験も積み重ねよう! ――今回は、大阪市で開催したソフトウェアクレイドルのセミナーで2人の流体解析専門家が語った、送風機設計における流体解析への取り組み方について紹介する。

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 2013年6月28日、大阪市でソフトウェアクレイドル(以下、クレイドル)主催セミナー「フェードイン! 設計の基礎が見えてくる」の第4回「送風機設計の工学講座2 〜設計パラメータと評価〜」が開催された。会場には、空調機器や家電のメーカーなどでさまざまな形で送風機(ファン)に関わる技術者たちが集まった。

 「フェードイン! 設計の基礎が見えてくる」は、クレイドルの30周年事業(設立は1984年3月)として実施している。約3時間のアジェンダの最初から最後まで、クレイドル製品の紹介はなく、設計理論を学ぶ講義のみで構成される。参加費も無料だ。

 第3回「送風機設計の工学講座」の参加者からは、「設計工学に流体解析(CFD)を組み入れた内容の講座が聴講したい」というリクエストが多数あった。それを受け、第4回は「送風機設計の工学講座2」と題し、流体解析における評価方法を解説する講座2本が設けられた。


会場の様子

第1部「送風機開発におけるCFD活用方法」――Tomo技術士事務所 友廣輝彦氏


Tomo技術士事務所 技術士(機械部門、情報工学部門) 友廣輝彦氏

 Tomo技術士事務所の技術士(機械部門、情報工学部門) 友廣輝彦氏は「送風機開発におけるCFD活用方法」と題し、前回解説された送風機の特性と設計の基本を復習しながら、「送風機設計にまつわる流体解析の結果をどう分析すればよいか」にフォーカスして講演した。実際、友廣氏のクライアントからも「解析はしたけれど、結果をどう見たらよいかよく分からない」という相談がよくあったという。

 まず友廣氏は流体解析を始める前に留意したいポイント、要は「設計者が流体解析の担当者に解析を依頼する際の注意点」として、以下を挙げた。


  • 「何の現象について知りたいのか」をはっきりさせておく
  • ある程度結果の予想を立てておき、結果に対する目の付けどころを明確にしておく
  • 最初のメッシュの作り方で条件変更の仕方が大きく変わるため、あらかじめ形状変更や障害物の可能性を予想しておく
  • 実験との連携を考えているのであれば、それに合わせた解析モデルを作る

 「とにかく解析すれば、何か分かるだろう」で臨み、解析担当に全てを丸投げしてしまうのはよろしくない。設計者自身の経験から結果の予測をある程度立て、見たいポイントを明確にしておかなければ、解析は迷走してしまう。

 この講演のメインテーマだった、流体解析の結果を見る際の注意点は、以下。前述の「流体解析を始める前の留意点」もここに効いてくることが分かる。

  • 正しく計算できているか確認する
  • マクロな特性の傾向が合っているか確認する
  • 流れを詳細分析する
  • 表示方法にごまかされないこと

 講演で紹介された例題では、光造形で部品製作した送風機を用いた実験も実施し、解析結果と比較しながら、評価方法について解説した。


ファンの解析モデルとメッシュ(当日配布資料より)

空力特性測定装置(当日配布資料より)

 解析と実験の結果は、評価に大事な部分での傾向はぴったりと合っていたが、ずれている部分も見られた。これは流体解析ではよくあることで、現実世界では原因が不明瞭な現象や、複雑に絡み合った現象が起こるためだ。双方の結果を合わせ込むことにこだわり過ぎれば、本来の目的を見失う。「何の現象について知りたいのか」を頭に入れ、定量的にではなく定性的に判断するのが妥当であると友廣氏は説明した。

 3次元的な結果表示は、モニター画面上で動かしながら全体の流れのイメージを捉えるのには有効であるが、静止画像になると奥行き感が分からなくなり、評価しにくい。さまざまな角度の断面を観察し、2次元で多角的に分析すべきだ。また流速コンター図は流れの速いところ、遅いところは分かりやすいが、流れの向きの情報は抜けているので、現象の全体像を見間違えることがある。ベクトル図と併せて結果をジャッジしたい。


羽根車を円筒面で展開した圧力分布:解析結果評価例(当日配布資料より)

 友廣氏は、「解析結果を信じ切らず、“自分で”正しいかどうかを判断することが大事」ということを繰り返し、解析実務と併せて実験の経験を積み重ねることの必要性も強調した。

第2部「CFDによるファン騒音の理解と静音設計」――法政大学 御法川学氏


法政大学 理工学部機械工学科 教授 御法川学氏

 法政大学 理工学部機械工学科 教授の御法川学氏は“流体解析の最先端”である流体騒音解析の正直な実情や現実的な評価方法について、「CFDによるファン騒音の理解と静音設計」と題して講演した。

 「流体騒音のシミュレーションは流体解析の中で最も難易度が高く、チャレンジングな分野。定量評価はまだ難しい段階」と御法川氏は言う。とはいえ、製造業の設計開発においては、今、非常に注目されている分野でもあり、定性的かつ経験的に用いるなら実務における適用に値する段階にきているとも述べた。

 流体騒音とは、「流れの変動そのものが音源になる騒音」のことだ。その例としてよく知られているのは、以下だ。

  • 自動車、鉄道、航空機の風切り音
  • ジェットエンジンの噴流音
  • 流体機械騒音
  • 生体の音

 流体騒音は流速の6〜8乗に比例して大きくなる。つまり羽根の回転数が増え、流速が上がるほど、騒音は増大する(Lighthillの方程式に基づく現象)。これはつまり、「騒音を小さくするには、流速を下げるのが一番効く」ということだ。そのまま流速を下げれば、流量も減少するが、羽根車の直径を大きくするなどして流量を維持する。これは飛行機のジェットエンジン開発でも実際に行われている手段だ。また渦や剥離など乱流の現象を抑制すれば、性能向上と騒音低減の両立がかなう。

 送風機は、単純にいえば「羽根が回って流れが非定常に変化すること」で騒音が出る。その騒音は、大きく「広帯域騒音」と「卓越騒音」に分類される。前者には乱流騒音、後者には回転(干渉)騒音や共鳴騒音(サージングなど)、低周波騒音(旋回失速する際に発生)が含まれる。中でも、回転騒音は送風機の騒音に最も寄与度が高い成分で、耳障りな音だ。

 回転騒音については、強制的な周期変動であるため流体解析がしやすいという。しかし非定常現象である乱流騒音や、音響共鳴を考慮しなければならない騒音については流体解析の難易度が非常に高くなるとのことだ。


音源解明と静音化(当日配布資料より)

干渉音に関係する圧力変動の測定とCFDの比較(当日配布資料より)

 流体騒音の計算手法には、以下の3つがある。

  • 定常計算:RANS(時間平均された流れ場を計算)
  • 間接法の非定常計算:非定常RANS(平均時間を短縮した瞬時値)、LES(大規模な渦の直接計算)、RANSとLESのハイブリッド手法
  • 直接法の非定常計算:ナビエストークス方程式、格子ボルツマン法

 直接法の非定常計算を行えば音響場まで含めた厳密な計算ができるが、計算量が非常に多くなる。定常計算は計算量が少ないが、小さな渦のような非定常な変動まで計算できない。その中間的存在である間接法の非定常計算は最もよく使われる。その解析結果から完璧な定量評価はできないが、音源の分布や騒音の傾向を見て、さまざまな設計案やパラメータを相対的に比較することで静音対策が十分立てられる。


音源に関係する内部流れの観察と評価(当日配布資料より)

 流体騒音解析においても、実験を積み重ねて解析結果と対比させ評価する、経験的データベースを積み上げていくことが重要だと御法川氏は述べた。

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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2013年8月23日

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