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第8回 ファンを含めた解析を実施、結果は多方面に活用(後編)拡がる電子機器設計の熱対策

ファンは電子機器の熱流体解析の中でも比較的、難易度の高い部品とされる。なぜなら可動部品のため、流れが非常に複雑になるからだ。前編では、通常の電子機器はもちろん、スパコンなどをはじめとする特殊な製品に向けたファンモーターで高い実績をもつオリエンタルモーターに、ファンの流体熱解析を取り巻く現状や、設計事例について聞いた。後編では、電子機器の熱解析の方法や、試作以外にも広がる解析のメリット、課題について話を聞く。

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シミュレーションは新たな気づきを与えてくれる

 現在はファンの試作と並行してSCRYU/Tetraによる解析を実施している。ラピッドプロトタイピングで作成したファンのP-Q特性を専用装置で計測する。そして特性の違いをシミュレーションで確認する。さらに無響音室で特殊なマイクロフォンを使い音の大きさや種類などを分析。それらを基にファンの形状を再検討する。

 シミュレーションを活用するメリットは、「こう流れているはずだ」という思い込みを改められることだと伊藤氏はいう。シミュレーション結果と実測結果を突き合わせることによって、さらによい製品を作るための新たなアイデアが生まれるということだ。

シミュレーションとうまく付き合うことが必要

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図3 「CradleViewerで見る電子機器熱設計」
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図4 電子機器の熱流体解析を行った例
矢印は空気の流れ。青から赤になるほど温度が高いことを示す。

 一方、熱流体解析は、本質的にどうしても誤差が出るものだ。なぜなら数値解法自体が近似解であること、実際の製品や現象を完全な形でモデル化することは不可能であることなど、不確定の要素を内包するものだからである。それでも、致命的な設計ミスを確実に防ぐためにはシミュレーションは非常に有効だ。「設計ミスによる手戻り時間をなくし、新たな課題にチャレンジする有意義な時間を生み出すことが、ソフトを使う意義の一つ」だと伊藤氏はいう。課題の一つに、こういった熱流体解析の特性が関係先になかなか理解されないということがある。たとえば電気回路設計者は電圧などさまざまなスペックをミリ単位などで決定していく。そのため熱に対しても、条件を決めれば正確な値が出るはずだと考えがちだ。しかし熱を扱う者にとっては、熱は「言った通りにはならない」ものだ。「例えると、デジタル設計者とアナログ設計者の意識の違いに似ているのかもしれません」(伊藤氏)。温度予測に過度な期待はできないが、手戻りの恐れがある条件は、事前のシミュレーションによって十分に避けられる。熱流体解析の特性を理解した、有効な使いこなし方が広まればということだ。

 こういった経験をふまえ、電子機器の熱流体解析に対するノウハウを盛り込んで執筆されたのが「CradleViewerで見る電子機器熱設計」(図3)だ。この本は解析結果を拡大したり、回転したりできるビューワソフトを収録したCD-Rが添付されており、ファンを含む電子機器の熱設計を実践的に学ぶことができる(図4)。シミュレーションでは、より現実に近い姿を専門家ではない人にも伝えられるということが、この本を書いた理由の一つだ。シミュレーションはいくら大胆な設計でも手軽に試すことができ、試作品を作る手間を省ける。またあらかじめ設計案を大まかに絞れるのもメリットだ。たとえば電子部品の配置は、発熱の大きいものを近づけてしまうと致命的な設計ミスになる。こういった分かりやすい例は、シミュレーションをすることによってある程度分かる。そういったシミュレーションをやれば明らかに防げる例をきちんと排除するためにも、シミュレーションは重要だ。

解析結果が誰でも見られるように

 なお「CradleViewer」は、ソフトウェアクレイドルが提供しているSCRYU/Tetraや、電子機器専用の熱流体解析ソフト「熱設計PAC」の計算結果を見ることができるフリーソフトだ。インストールの手間がなく、好きな角度やサイズなどで静止画と動画を簡単に見ることができる。このビューアーによって、解析ソフトをインストールしたパソコン以外でも解析結果を見ることができるようになった。解析データをどの位置からどの表示で見せるかなどSCRYU/Tetraの結果表示ソフトで設定・保存した表示をCradleViewerでもファイルを読み込むだけで再現でき、使いやすさに配慮している。

 同ソフトは、他部門とのコミュニケーションの促進にも役立つ。たとえば購買担当者に、熱対策のために高価な部品が必要だということを説明しなければならないとき、言葉だけで伝えるのは難しい。しかしシミュレーション結果を見せれば、「温度がこの周辺ではかなり上がるため、そこに高価な部品を使わざるを得ない」ということを、ただちに感覚的に理解させることができる。あるいは、購買担当者から、さらに良い部品の情報が得られるかもしれない。また、組み立て担当者に対しては、「このような熱問題がここに起こるので、この場所の組み立てにはこんな配慮が必要だ」などということもシミュレーション結果をもとに説明できる。

音のシミュレーションは今後の課題

 今後は、音に関しても解析できるようになればという。音は熱や流れを解析するよりもはるかに細かいメッシュが必要になる。たとえスパコンでも計算時間が膨大になり、企業で取り組むのは難しい。そこで今、大学と協力してほかの手法がないかを探しているところだ。「何か音に関係する指標が分かれば、ストレートに音を計算する必要がなくなり、通常スペックのマシンでも計算できるようになるかもしれない。普通のパソコンでも音に関する解析ができるようになれば、電子機器に限らず幅広い分野に役立つでしょう」と伊藤氏は期待する。

 実際に失敗しながら経験を積むことは、新製品を一から開発する上では重要だと伊藤氏は言う。一方で、解析ツールはうまく使えば手戻りを減らし、より発展的な検討を行う時間が取れたり、解析結果を多方面に活用できたりするなど、メリットも大きい。解析ツールの有効性を理解して、うまく使いこなすことが大事だということだ。

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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日

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