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顧客の要望をうのみにするな 分析まひを抜け出す「超上流のプロトタイピング」「直感」と「論理」を使い分ける実践デザイン論(2)(1/2 ページ)

新しい価値を持つ製品開発では、要件定義の段階で議論が停滞しがちだ。本連載では、83Designが実践する「直感」と「論理」を使い分けるデザイン手法を紹介する。第2回は、顧客の声やデータをそのまま企画に落とし込むワナと、企画の超初期から具体的な「形」を使って仮説を検証する方法を解説する。

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はじめに:なぜ顧客の声を集めても企画は前に進まないのか

ターゲットへのヒアリングも重ね、客観的なデータに基づいた企画書を作ったはずなのに、役員からは「これ、ウチがやる意味あるの?」と一蹴されてしまった……。

誰も答えを知らない新しい市場だからこそ、確実なエビデンスがほしい。でも、調査や分析をすればするほど、結局は競合と同じような機能の羅列になってしまう……。

 新規事業や新製品企画の立ち上げという「特命」を受けたプロジェクトマネジャー(PM)や企画リーダーにとって、最大の敵は「不確実性」です。誰も答えを知らない未知の市場へ挑むに当たり、多くのPMはまず、ユーザーインタビューや競合分析などの徹底的なリサーチに乗り出します。

 調査の結果、「シニア層は健康管理に不安がある」「見守り機能がほしい」といった具体的な声やデータが集まると、PMは安堵(あんど)するでしょう。それが、上層部を納得させるための「客観的な事実(≒エビデンス)」に見えるためです。

 しかし、ここに大きなワナが潜んでいます。

 収集した客観的な事実をうのみにし、そのままビジネスモデルや製品仕様に落とし込んだ企画は、大抵の場合うまくいきません。なぜなら、競合他社も同じようなデータに触れているため、「二番せんじ」の凡庸な企画になりがちだからです。いざ上司や役員会議にかけても、アンケート結果以上の強い根拠を提示できず、「本当に投資する価値があるのか?」と差し戻されるのがオチでしょう。

 ただし、初期段階で差し戻されるなら、まだ幸運といえます。本当の悲劇は、このまま開発フェーズへと進んでしまった場合です。後戻りできない段階になって「誰も買わない」「コストが合わない」といった根本的な問題が発覚すれば、会社として多大な損害が出ることはもちろん、PM自身が社内外の板挟みとなり、企画の練り直しや仕様変更、関係各所への対応に追われかねません。

 きちんと調査をしているのに、なぜうまくいかないのか。そこには、優秀なPMほど陥りがちな「努力の方向のズレ」が存在します。

1.なぜ企画はデッドロックするのか? 「分析まひ」の構造

 リサーチ結果をそのまま企画にして失敗する根本的な原因は、「顧客自身も、自分が本当にほしいものは分かっていない」という事実にあります。言葉による質問や定量的なアンケート調査をいくら繰り返しても、顧客の奥底にある本質的なペインや、その背後にあるインサイトを引き出せるとは限りません。

 この「定量データ偏重のワナ」を示す有名な事例として、1980年代の「ニュー・コーク」の大失敗があります。約20万回の味覚テストを行い、「新しい味の方がおいしい」という確固たるデータを根拠に新商品を市場へ投入したものの、全米規模の大きな反発を招きました。テストという切り取られた環境で得た「おいしい」というデータだけを信じ、ユーザーが長年コーラに抱いていた「日常の文脈」や「感情的な結び付き」というインサイトを完全に見落としたためです。

 しかし、企画プロセスでは往々にして、こうした「データ」や「声」こそが絶対的な安心材料として扱われます。データを集め(調査)、「Excel」でこねくり回し(分析)、言葉や数字だけが並んだ「PowerPoint」を使って議論する(会議)――。こうして「形のない机上の空論のループ」に陥っていきます。

 忘れてはならないのは、調査結果はゴールではなく、あくまで「最初の不完全な仮説」にすぎないということです。顧客の実際の体験に基づく検証や学習がないまま、不完全な仮説を机の上でいくらこねくり回しても、会議は解像度の低い臆測のぶつけ合いにしかなりません。

 結果として、誰も自信を持って決断できず、「もっとデータが必要だ」と再びリサーチに戻ってしまいます。これこそが、プロジェクトを完全に膠着(こうちゃく)させる「分析まひ」の正体なのです。

「形のない机上の空論のループ」について
図1 「形のない机上の空論のループ」について[クリックで拡大] 出所:83Design

2.超初期から回す「BMLループ」と「JUMP」の力

 では、どうすれば顧客が本当に求めているものを理解できるのでしょうか。

 私たち83Designは、企画の「超初期段階」から、最速で仮説を立てて具体化し(Build)、検証し(Measure)、学習する(Learn)「BMLループ」を回し始めることを何よりも重視しています。リサーチ結果を一度そしゃくし、顧客の言葉の裏にある本質的なペインを捉え、「問いそのものを疑う」ことで、独自の価値仮説へと昇華させます。

「BMLループ」について
図2 「BMLループ」について[クリックで拡大] 出所:83Design

 そして、このBMLループを最速で回すための強力な着火剤となるのが、連載第1回で解説した「JUMP(直感的な飛躍による具象化)」です。

 リサーチデータに頼り切るのではなく、時には直感や臆測を基にJUMPし、具体性の高い仮説を立てるのです。そして、妄想も多分に含みながら、早い段階で「形(ペルソナ、ジャーニーマップ、ラフなスケッチなど)」にして(Buildして)しまいます。

 プロジェクトの初期段階から、目に見える「形」を会議のテーブルに投下することで、メンバー間の認識の解像度が高まります。具体像が示されれば、会議は「その仮説が正しいか」を評価(Measure)する質の高い場へと変わるからです。

 営業や開発といった各部署の専門家からは、先を見据えた懸念や、自社ならではの競争優位性につながる指摘など、多様なツッコミが引き出されるでしょう。ここで出された生々しい意見や指摘こそが、仮説のどこが間違っているかを確かめるための貴重な「検証設計の素」になります。

「JUMP」について
図3 「JUMP」について[クリックで拡大] 出所:83Design

 「形」は、完成度の高い正解ではありません。議論を進め、インサイトを炙り出し、BMLループを回し始めるための最速のコミュニケーションツールです。臆測から生まれた荒削りな仮説であっても、チーム内でBMLループを繰り返し、質の高い評価(Measure)を重ねることで、競合には容易にまねできない、確度の高い価値仮説へと昇華できます。

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