データセンター級のAIをローカルで、HPが大規模AI向けワークステーション発売:メカ設計ニュース

日本HPは、大規模AIモデルの開発や推論処理に特化したワークステーション「HP ZGX Fury G1n AI Station」を発表した。NVIDIA GB300 Grace Blackwell Ultra Desktop Superchipと748GBのコヒーレントメモリを搭載し、最大1兆パラメーター規模のAIモデルによる推論処理に対応する。機密データを外部に出すことなく、AIの開発から本番運用までをローカル環境で実行できる。

» 2026年10月26日 11時15分 公開
[八木沢篤,MONOist]

 日本HPは2026年10月26日、AI(人工知能)開発に特化したタワー型ワークステーション「HP ZGX Fury G1n AI Station」を発表した。

 「NVIDIA GB300 Grace Blackwell Ultra Desktop Superchip」を搭載し、大規模AIモデルの開発や推論処理をローカル環境で実行できる。希望販売価格(税込み)は2849万円からで、同月27日から販売を開始する。

AI開発に特化したタワー型ワークステーション「HP ZGX Fury G1n AI Station」 AI開発に特化したタワー型ワークステーション「HP ZGX Fury G1n AI Station」[クリックで拡大] 出所:日本HP

 HP ZGX Fury G1n AI Stationは、NVIDIAが開発したデスクサイド型AIスーパーコンピュータ「NVIDIA DGX Station」の基本設計をベースに、HPが自社ブランドで展開するAI専用ワークステーションだ。

 同製品は、NVIDIA Blackwell Ultra GPUと、Arm Neoverse V2アーキテクチャを採用した72コアのNVIDIA Grace CPUを組み合わせたGB300を搭載する。252GBのHBM3e GPUメモリと496GBのLPDDR5X CPUメモリで構成される、合計748GBのコヒーレントメモリを備える。また、オプションで96GBのGDDR7メモリを備えた「NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Max-Q Workstation Edition」も追加搭載できる。

 最大1兆パラメーター規模のAIモデルによる推論処理に対応し、1000億パラメーターを超える大規模モデルのファインチューニングや、複数の開発者による並行作業も可能だ。

 AIモデルの開発、検証、本番環境での推論処理までを同一システム上で実行できることも特長である。モデルサイズに応じて複数のユーザーが推論処理を同時に実行でき、クラウドや遠隔地のデータセンターへワークロードを移行する必要がない。これにより、応答時間を短縮できる他、運用コストの見通しも立てやすくなる。

「HP ZGX Fury G1n AI Station」の主な特長 「HP ZGX Fury G1n AI Station」の主な特長[クリックで拡大] 出所:日本HP

AIの開発/運用をクラウドではなく、ローカル環境で

 HP ZGX Fury G1n AI Stationは、これまでクラウドで行っていたAIの開発や運用を、ユーザーの手元に近いローカル環境で実行するための製品だ。インターネットを介さずにAIモデルを利用することで、機密性の高いデータを外部に出さずに管理できる他、データの入出力やAIの応答速度の向上も期待される。

 製造業での活用について、日本HPの製品担当者は「CADやCAEのデータを学習させて独自のAIモデルを作るといった使い方が考えられる。また、これまで人がチェックしていた設計データや解析結果をAIに任せたり、現場の作業マニュアルをLLM(大規模言語モデル)に参照させて、作業者からの質問に回答したりする用途も想定している」と説明する。

 この他、RAG(検索拡張生成)を活用し、社内に蓄積された技術情報やナレッジを参照して問い合わせに回答する用途も想定する。特に、研究開発部門では機密性の高いデータを扱う場面が多く、ネットワークを閉ざした環境でAIを利用できる点が大きなメリットとなる。

 HP ZGX Fury G1n AI Stationは、最大800Gbpsの通信速度に対応する高速ネットワークインタフェース「NVIDIA ConnectX-8 SuperNIC」を搭載し、複数台のシステムを接続したクラスタ構成に対応する。スイッチを介して2台、4台、8台以上へと接続台数を増やすことができ、AIモデルの規模や処理するデータ量などに応じて、処理能力を柔軟に拡張できる。

「HP ZGX Fury G1n AI Station」は高速ネットワークインタフェース「NVIDIA ConnectX-8 SuperNIC」を搭載しており、複数台を接続したクラスタ構成もサポートする 「HP ZGX Fury G1n AI Station」は高速ネットワークインタフェース「NVIDIA ConnectX-8 SuperNIC」を搭載しており、複数台を接続したクラスタ構成もサポートする[クリックで拡大] 出所:日本HP

Red Hat対応や無償ソフトウェアなどで差別化

 ソフトウェア面では、AI開発環境の構築を支援する「HP ZGX Toolkit」と、AIモデルの推論環境を提供する「HP Z Runtime」を無償でバンドル。HP ZGX ToolkitはAI開発に必要なツールの利用を支援し、HP Z Runtimeは開発したモデルをローカル環境で推論サービスとして展開/管理するための機能を提供する。

 また、企業の基幹システムなどで採用されているOS「Red Hat Enterprise Linux」にも対応する。NVIDIA DGX Stationをベースとした同種の製品を展開するOEMメーカーの中で、Red Hatの動作保証を受けているのは現時点でHP製品のみだという。製品担当者は「大企業や公共団体などでは、基幹システムのOSにRed Hatを利用しているケースがある。Red Hatを使うことで、既存の基幹システムと同じ手法でパッチ適用などの管理を行える点もメリットだ」と述べる。

 さらに、AIエージェントを分離されたサンドボックス環境で実行する、オープンソースのランタイム「NVIDIA OpenShell」にも対応。AIエージェントの動作や推論処理を実行する場所を制御し、プライバシーやセキュリティに配慮した運用が可能となる。

ラック設置や国内での保守に対応、導入前の実機検証も支援

 HP ZGX Fury G1n AI Stationは、デスクサイドでの利用に加え、5Uラックへの搭載にも対応する。ラックマウント用のレールキットが標準で同梱されており、設置環境に応じた運用が可能だ。

 HP ZGX Fury G1n AI Stationの冷却方式は、水冷式を採用している。CPUやGPUを搭載した基板にヒートシンクを取り付け、ヒートパイプやラジエーターなどを用いて冷却水を循環させる構造となっている。電源ユニットの最大出力は1600Wで、100V環境では1300W、200V環境では1600Wとなる。設置場所に関しては、冷却ファンの動作音や排熱などを考慮すると、一般的なオフィスの机上よりも、自社内のサーバルームやマシンルームなどへの設置が現実的といえるだろう。

 保守に関しては、3年間のオンサイト保証が付属する。製造拠点は米国だが、故障時の修理/交換対応は日本国内で行う。国内にも一定の交換用パーツを確保する方針だが、水冷構成を採用する同製品では、基本的に本体交換で早期の利用再開を図る考えだ。

 なお、HP ZGX Fury G1n AI Stationは、クラウドやデータセンターを完全に置き換えるものではないという。日本HPの製品担当者は「クラウドには、データ量や利用頻度の変動に応じて柔軟にリソースを利用できる強みがある。データの内容や容量、利用頻度などに応じて、オンプレミスとクラウドをハイブリッドに選択してもらいたい」と説明する。

 HP ZGX Fury G1n AI Stationの販売開始当初は、パイロット利用として導入する顧客が多いと見込み、検証を経て本番運用へと移行することを想定している。日本HPの製品担当者は「月に数十台規模の販売を見込んでいる」と説明する。受注から出荷までの期間は約1〜1.5カ月となる見通しだ。

 なお、日本HPの東京オフィスには、既にHP ZGX Fury G1n AI Stationの実機が1台設置されており、導入を検討する顧客向けに試用/検証環境を提供できる。加えて、アジア太平洋地域でも実機を共有して利用できる環境の整備を進めている段階だという。

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