多くの製造業がDXで十分な成果が得られていない中、あらためてDXの「X」の重要性に注目が集まっている。本連載では、「製造業X」として注目を集めている先進企業の実像に迫るとともに、必要な考え方や取り組みについて構造的に解き明かしていく。第8回は、DXを含む独自の生産システムを確立している京都のHILLTOPを紹介する。
製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)において、本質的な「X(ビジネス変革)」の在り方が問い直される中、成功している製造業はどのような取り組みを進めているのだろうか――。第8回は、DXを含む独自の生産システムを確立している京都のHILLTOPを紹介する。
元石川県副知事で政策研究大学院大学 特任教授の西垣淳子氏と、早稲田大学 研究戦略センター 教授の楠和浩氏が「製造業X」を体現している企業や現場を訪問し、次世代を担う製造業の変革の姿を紹介する。また、その姿がインダストリー4.0などで示された参照モデルの中で、どういう位置付けを担うのかを示しつつ、成功のポイントについて議論する。
HILLTOPは、京都府宇治市に本社を置くモノづくり企業。もともとは1980年に山本精工として設立された。アルミの切削加工を中心に、多品種、小ロットの試作部品や、装置部品の製造、各種装置の開発、DXソリューションなどを手掛けている。特に、独自の生産システムと24時間無人加工を活用し、1個からの小ロット生産や短納期への対応を強みとしている。最新鋭の5軸マシニングセンタや3Dプリンタなどの設備も活用し、高品質かつ柔軟なモノづくりを実現している。
また、機械や機構、電気設計から部品製作、調達まで一貫した装置開発にも対応する。長年培った技術やノウハウとデジタル技術を融合し「世界の開発を加速させる」をミッションに、製造業の新たな可能性に挑戦している企業である。
日本のモノづくり企業の「秘伝のタレ」ともいえる、製造現場に蓄積された加工ノウハウ。それをデータ化し、AI(人工知能)に学習させることで、モノづくりの競争力を高めようという議論が活発になっている。では、AIに学習させるべき「加工データ」とは、そもそも何なのだろうか。
熟練者が最後に選択した工具や回転数、送り速度といった「結果」を集めればよいのか。それとも、そこにたどり着くまでに何を試し、何がうまくいかず、どう条件を修正したのかという「試行錯誤」まで必要なのだろうか。
そんなことを考えながら、京都府宇治市のHILLTOPを訪ねた。今回取り上げるHILLTOPは、アルミの切削加工を中心とする製造業だ。早くから設計、加工、生産管理のデジタル化に取り組み、現在では自らの仕組みを他の製造業に提供するDXソリューション事業まで手掛けている。しかし、HILLTOP 代表取締役の山本勇輝氏に話を聞くと、現在の姿になった出発点は、AIでもDXでもなかったという。
最寄り駅を降り、広大な陸上自衛隊大久保駐屯地を回り込むように進むと、HILLTOPに到着する。目に飛び込んでくるのは、コーポレートカラーであるピンクを随所にあしらった建物だ。
中に入ると、自社のアルミ切削加工技術を生かしたモチーフが建屋の各所に使われ、一般的な「町工場」のイメージとは異なるデザイン性の高い空間が広がっている。
HILLTOPは「世界の工場をDX化し、人にしかできない価値ある仕事を追求する」というミッションを掲げている。AIが急速に進化し「人にしかできない仕事とは何か」が盛んに論じられるようになった現在だが、そうした議論を先取りするように、ずっと以前から「人にしかできない仕事」に向き合ってきたということなのだろうか。
しかし、山本氏は意外な方向性の回答を示す。「製造業が嫌いなんです」(山本氏)というのだ。
多くの製造業で採用されている生産ラインでは、作業を細分化、規格化し、作業する人のスキルに依存せず、かつミスが出にくいように考えられており、それが理想とされてきた。そのラインに入る作業者は、結果として毎日同じ仕事や作業を繰り返すことになる。
山本氏は「それは働く人に楽しい環境だとはいえない。そういう人が仕事中に考えることは『仕事が終わったら何しようかな』ということだけだ。そういう環境にするのは嫌だった」と思いについて説明する。
この思いを原点にHILLTOPは改革を進めた。同じモノを大量に作る量産品中心の仕事から、多品種少量に切り替え、さらに一品モノの仕事へと舵を切った。ただ、それには社内の仕組みを一品モノでもビジネスとして成立するものへと一から作り直していく必要があった。
一品モノの製品を生産するのは、毎日同じ製品を大量に作るのとは異なり「この部品をどう作るか」から考える必要がある。さらに、作るための工具をどうするか、どのように固定するか、どんな加工順序にするかなど、全てを毎回考える必要がある。試行錯誤は増え、仕事にかかる時間も増えた。「それでも以前より仕事を楽しいと感じる社員が増えた」(山本氏)という。
同じことを繰り返すのは楽しくない。新しいことを考えるのは楽しい。一方で、多品種少量であってもリピート生産がなくなるわけではなく、2度目以降は、面白さが減少する。ならば、一度経験したことはデータとして残し、ルーティン化できる仕事は機械やシステムに任せればよいのではないか。そして人は、まだ経験したことのない仕事を考えれば常に新しい経験ができる。この発想が、後の「HILLTOP SYSTEM」という同社独自の生産管理システムへとつながったという。
ここで、筆者はHILLTOPについて持っていたイメージが大きく変わった。人手不足だから自動化する。熟練者が引退するからノウハウをデータ化する。AIが登場したから加工データを集めよう――そういう順番ではなかったのである。
「人にしかできない価値ある仕事を、人にしてもらいたい」というミッションを追求した結果、一度経験した仕事をデータとして残す必要が生まれ、自動化が進み、結果として現在のDXにつながったのである。
HILLTOPの沿革を見ると、HILLTOP SYSTEMの構築が始まったのは1983年だという。はるか以前から、同社は「培ったノウハウをシステム化し、誰もが再現できる仕組みにする」という作業を続けてきたのである。
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