同じ機械なのに、なぜ性能が違う? 超音波溶接機の共振ずれとボルト破断:冴えない機械の救いかた(14)(2/4 ページ)

» 2026年10月15日 06時00分 公開

ボルト破断の原因 CAE解析の出番です

 図3にもう一度注目しましょう。ボルトは振動子とホーンの両方にかみ合っています。図6に振動子の組み立て手順を示します。組み立てでは、まず振動子を締め付け、次にホーンを締め付けます。一見、ダブルナットのようないい感じの締結に見えますが、ここに問題がありました。

振動子の組み立て手順 図6 振動子の組み立て手順[クリックで拡大]

 いよいよCAE解析の出番です。図7に、振動子のボルト締め付け時にねじ山に発生する面圧分布を示します。矢印の大きさが、ねじ面に発生する接触圧力です。解析は軸対称問題(連載第4回)としました。これもANSYSの解析結果のキャプチャーを掲載できなくてごめんなさい。

ボルト締め付け時のねじ山に発生する面圧分布 図7 ボルト締め付け時のねじ山に発生する面圧分布[クリックで拡大]

 まず、上段の図に注目します。ねじ山のうち、最初の3山がほとんどのボルト軸力を受けています。入社時に先輩が「ねじは最初の3山が荷重を負担している」と言っていた通りです。

 次に下段を見ると、今度はホーンのねじ山がボルト軸力を受けています。一方、振動子側では1山だけが少し軸力を受け持っています。ホーンのねじ締結時にトルクやねじ山の摩擦係数がばらつけば、振動子側のねじ山面圧がゼロになる、つまりねじ山の接触が離れることは容易に想像できます。

 図4に示した振動子のばねは伸び縮みしています。ということは、振動子側のねじ山は接触と乖離(かいり)を繰り返すことになります。この結果、赤さびが生じたのでしょう。

 ここでフレッチング現象を説明しましょう。接触面が接触と乖離を繰り返し、微小な滑りが生じたときに、疲労限度が低下する現象です。条件がそろうと、本来の疲労限度の3分の2以下になります(参考文献[1])。

 疲労限度が3分の2くらいに低下しても、そう簡単には破断しません。しかし、図2の共振構造物とツールの形状の影響により、振動子は単純に伸縮するのではなく、ボルトを曲げ変形させるような振動形態になっていました。この振動形態には、計測ではなくシミュレーション結果から気付きました。

 そもそも、この超音波溶接機では加速度ピックアップによる振動測定は困難です。装置周辺が強烈な振動場で、振動加速度が大き過ぎるからです。やるとすれば、ひずみゲージを貼り付ける方法があります。

 ボルトが曲げ変形していた証拠としては、振動子のマスとホーンの接触面の写真があり、接触と乖離を繰り返した面の荒れが観測されました。そして実は、時刻歴応答解析による圧力分布と、面の荒れた領域が一致しています。

 ボルトに曲げ応力が発生すると疲労破断しやすくなることは、連載第8回で述べましたね。それに加えて、フレッチング箇所も同定されました。これらが重なり、4台のうち条件が悪かった号機では、ボルトが毎回同じ位置で疲労破断する結果となりました。

溶接強度のばらつきは脇に置いといて、ボルト破断を止めよう

 前述した締め方は、ダブルナットのように見えますが、やってはいけない締め方でした。もちろん、ダブルナットそのものを否定しているわけではなく、正しい締め方があります。

 原因が分かったので、工場からボルトを数本持ち帰り、図8に示すようにワイヤ放電加工で切断しました。強度区分が12.9の焼き入れボルトなので放電加工となります。即席植え込みボルトの出来上がりです。これを工場に持ち込み、装置を改造しました。後に正規の植え込みボルトを手配したそうです。

ボルト破断対策 図8 ボルト破断対策[クリックで拡大]

 マスはボルトで締結されています。そして、ホーンとマスは植え込みボルトで締結されています。ねじ山の接触圧力は締め付けトルクに応じて確保され、先ほどのように大きく変動しません。その結果、フレッチング現象が抑えられ、ボルト破断は発生しなくなりました。さらに、ワークの溶接強度のばらつき低減にもつながりました。

2正面作戦 次は溶接強度の安定化です

 続いて、4台のうち、ある号機だけ溶接強度が出ない問題です。この件は、一緒に仕事をしたもう1人の方がメインとなって進め、さらにあと1人、共振回路のスペシャリストのサポートも受けました。

 超音波溶接機の調整では、溶接強度が低かったらボリュームを回して振動子の振動を大きくするのですが、ボリュームを回し過ぎるとツールのどこかが疲労破断するといったことがよくあります。

 ツールが疲労破断する原因を大ざっぱに説明します。前述した「ボリュームを回して振動子の振動を大きく」した状態を考えましょう。振動子の振動は、メカ的な共振回路(図2の共振構造物)で増幅され、ツールを動かします。

 ここで、メカ的な共振回路の共振状態が少しずれた状態を考えます。連載第1回で取り上げた、昭和のラジオで「オールナイトニッポン」が聞こえなくなった状態です。ツールの振動変位は溶接に必要な量より小さくなり、溶接強度が低下します。

 すると機械の操作者は、ボリュームを回して振動子の振動量を大きくし、溶接強度を上げようとします。このときの振動子の振動量は、共振状態が成立していれば少なくて済むはずの振動量より大きくなっていますね。つまり、必要以上に大きな加振(この場合は加振変位)を与えることになり、ボルト破断につながったと解釈できます。

 共振状態のずれ度合いは4台全てで異なります。そして、いくつかの影響によって共振状態のずれ量も変動します。その結果、ツールの振動変位が変動し、溶接強度が安定しなかったというのが筆者の解釈です。

 前述したことから、「溶接強度の大小で装置の調整をしてはいけない」といえると思います。もっと確かな量を測定して判断する必要があるでしょう。

 今回はツールの振動変位をレーザー変位計で測定しました。測定周波数が高いので、レーザー変位計はそこそこ高級品でしたが、レーザードップラー振動計よりは安価です。本来ならレーザードップラー振動計で測定すべきでしたが、かばんに測定器を詰め込んで工場に向かうことの繰り返しなので、ポータブルな測定系が必要でした。

 図9に振動変位の測定系を示します。レーザー変位計でツールの変位を直接測定し、装置の調整は溶接強度ではなく、測定した振幅で判断しました。つまり、どの号機でも振幅が同じになるように調整したのです。この振幅でツールが疲労破断するかどうかについては後述します。

振動子の振動変位の測定系 図9 振動子の振動変位の測定系[クリックで拡大]

 この辺で共振回路のスペシャリストのところに相談に行きました。変位波形を見るなり、「ピーキーな装置である」ことと、「理想的な共振状態ならば、観測される波形はきれいなサインカーブであるはず」との見解をいただきました。

 溶接強度が不安定なので、ピーキーであることは分かります。観測された波形は台形波の角を丸めたような形だったことから、メカ系の共振周波数と振動子に印加する電圧の周波数が一致していなかったのです。無駄な電力を消費すると同時に、必要以上に振動子を大きく振動させ、いろいろな部品に余計な荷重をかけていました。

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