本連載「冴えない機械の救いかた」では、メカ設計の失敗事例を題材に、CAE解析や計測技術を用いて、不具合の発生メカニズムとその対策を解説していく。第14回は、同じ図面で製作された4台の超音波溶接機で、ある号機は溶接強度が出ず、別の号機ではボルトが1週間で破断した事例を取り上げる。CAE解析と振動計測から、ねじ締結部のフレッチングや共振状態のずれを読み解き、ボルト破断の対策と溶接強度の安定化に至った過程を追う。
今回も「デートにカラーフィルムを持ってくるのを忘れた彼氏さん」のような機械を救った事例です。「同じ機械が数台ある。ある機械は性能が出る。ある機械は性能が出ない」の2例目として、超音波溶接機の事例を紹介します。この仕事は2人がかりの2正面作戦でした。以前、今回の事例とは関係のない方から聞いた「超音波溶接機って、溶接強度が低かったらパワーを大きくするのだが、そうするとツールが壊れるんだよね」という問題そのものです。
世の中には“超音波ナントカ”という機械がいくつかありますが、アニメで出てきそうな超音波ビームが何かをするのではなく、耳に聞こえないくらいの周波数、つまり22[kHz]以上の振動数で何かを動かし、加工などをする機械が多いと思います。超音波溶接機も例外ではなく、以下の原理で溶接します。「溶接」と名前が付いているものの、金属を溶かしているわけではなく、「固相接合」と呼ばれる接合法です。
あと1つポイントがあります。「大気中の金属表面は金属原子が露出している」という状態はほとんどありません。「ほとんど」なのか「全て」なのかは筆者の勉強不足で、「全て」とは言い切れません。
「金属表面構造」というキーワードで検索すると、金属表面層のイメージ図が見つかると思います。出典は不明ですが、実はこれと同じ絵を若い頃、トライボロジーのセミナーを受講したときにも見ています。いろんなところで使われている図です。
金属表面は金属原子が露出しているわけではなく、取りあえず酸化膜があります。その上には吸着分子や汚れの層が存在します。汚れの層が存在する一例を挙げると、ステンレスボルト(A2-70)をねじ穴を開けたフランジなどにねじ込む場合です。両者を有機溶剤などで洗浄すると、ねじ込み時に「かじり」と呼ばれる症状が現れ、ボルトが回らなくなることがあります。つまり、洗浄処理をすると汚れの層(ステンレスボルトの場合は油分と推測しています)がなくなり、かじりが発生します。一方、洗浄しないステンレスボルトの場合は簡単にねじ締めができます。要するに、洗浄処理をしないボルトには汚れの層が存在します。
さらに、「固相拡散接合」という接合法があります。金属が溶けない温度で、酸化しないように真空中や不活性ガス雰囲気中で密着させると、金属同士がくっつく現象です。実は固体状態の表面の金属原子はぴょんぴょん動いていて(筆者が見たわけではないのですが……)、金属原子同士を出会わせて金属結合させる加工法です。
液体ヘリウムを使う超電導コイルでは、巻き芯に巻いた導体の端同士を電気的につなぎます。ここをはんだ付けするとジュール熱が発生し、磁場がだんだん小さくなってしまいます。一方、導体の端同士を固相拡散接合すると、超電導線同士が直接つながるので電気抵抗がゼロのコイルが出来上がり、電源から切り離しても半永久的に電流が流れ続けます。ただし、極低温では、はんだの抵抗もかなり小さくなります。
以上、(1)金属表面には金属原子が露出しているわけではない、(2)金属原子同士を出会わせると金属結合する、という2点をお話ししました。では、室温環境ではどうやって接合するのでしょうか。超音波溶接機では、(1)物理的にワークをゴシゴシ擦り合わせて表面の金属以外の層を破壊する、(2)擦り合わせる際にワークを押し付けることで金属原子同士を出会わせ、金属結合させる、という方法を使います。図1に超音波接合の原理を示します。筆者がこの様子を顕微鏡で見たわけではないので、あくまでも想像図です。
図2に超音波溶接機を示します。まず、ツールを加圧する機構でツールを下方向に押し付けます。振動子で左右方向に振動を発生させ、共振構造物でその振動を増幅し、ツールを左右に動かします。ツールに密着した上側ワークは左右方向に動きますが、下側ワークはアンビルに密着しているため動きません。上側ワークと下側ワークをゴシゴシゴシと擦り合わせることで、図1に示したメカニズムに従ってワーク同士が接合されます。
共振構造物の生写真はあるのですが、公開できず申し訳ありません。これは、駆動周波数で加振すると共振する構造物です。モーダル解析をすると、駆動周波数と固有振動数が一致する振動モードが見つかります。
図3に振動子の構造を、図4に振動子をモデル化したものを示します。ボルトだけでなく、圧電素子もばねとして働きます。圧電素子は電極間に電圧をかけると伸び縮みするため、電圧を印加することで加振力を発生させることができます。
図4を見ると、連載第2回で説明したばね−マス系にとてもよく似ています。そのため共振点があり、その周波数で電極への印加電圧のプラスとマイナスを入れ替えると、マスは大きく振動することになります。
今回の例では、全く同じ図面で作られた超音波溶接機が4台ありました。そして、1号機は調子いいが、2号機は溶接強度が出ない、3号機は1週間でボルトが折れるという状況でした。
ここで大事なのは、溶接強度が基準値を上回らないと製品がオシャカになるため、溶接強度が基準値以下なら振動子に与える電気的なパワーを上げるという対応をしていたことです。ところが、パワーを上げるとボルトが折れました。
問題を起こしている機械なので、定期的にボルトを点検していました。すると図5に示すように、折れていないボルトには赤さびが発生しており、その位置はボルトがいつも折れる位置と一致していました。これも生写真はご容赦ください。
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