MONOist 仮想ハードウェアに基づく開発を推進するためのどのような活動をしてきましたか。
水山氏 仮想ハードウェアの構築に向けてはソフトウェアとハードウェアをつなぐインタフェースとなる互換レイヤーの標準化が必要になる。そこで、2018年ごろからさまざまな企業を巻き込んで自動車向けでの標準化活動を推進してきたのがVirtIOだ。
AGL(Automotive Grade Linux)のイベントで互換レイヤーについて提案した最初の段階では、構想のみでソフトウェア自体は全くできていなかったものの、車載情報機器向けのAndroidを展開するGoogleの賛同を得ることができた。これは、個別のデバイスごとにAndroidをカスタマイズするよりも、全てのハードウェアとの互換性が得られる仮想ハードウェア上で開発した方がいいと考えたからだろう。
GoogleやAGLを巻き込んだことで、半導体メーカーをはじめいろんな企業が参加を検討する引力が業界内で生まれた。2024年ごろからは、自動車メーカーも仮想ハードウェアを基にした開発に賛同するようになってきている。そこの仮想ハードウェアの構築に向けた活動を先駆けて推進してきたこともあり、当社はリーダーシップを取っていると考えている。
VirtIOそのものは、OASISが策定するクラウドサーバ向けのデバイス仮想化技術として存在していた。仮想ハードウェアのための互換レイヤーを構想してから1〜2週間でVirtIOのことを認識し、既にあるこの規格に乗った方がオリジナルで新しく作るよりも早いと考えた。
そのころ、仮想ハードウェアを構築するための互換レイヤーとなるハイパーバイザーについては、プロプライエタリなソフトウェアを展開するベンダーが先行していた。当社も2016年にOpenSynergyという企業を買収しプロプライエタリなハイパーバイザーを訴求しようとしていたが後発であるため不利な状況にあった。であれば、プロプライエタリで囲い込む方向性ではなく、標準化した方が当社のメリットにもなるし自動車業界のためにもなる。そしてオープンソースであれば、多くの企業が安心して参加してくれるだろうと判断し、別の業界からではあるもののVirtIOを取り込むことにした。
MONOist ただしクラウドサーバ向けのVirtIOを自動車向けに実装するにはさまざまな仕様策定が必要になります。
水山氏 まずは当社自身で自動車向けに実装した成果をオープンソースソフトウェアとして公開した。ただしオープンソース活動には仲間づくりが必須だ。そこで、同じくオープンソース活動を行っているAGLの中でグループ作り、そこから仲間を増やしていき自動車向けの実装の成果も広げていった。
現在、VirtIOを適用する車載システムとしては、Linuxをベースとする車載情報機器やコックピットなどを想定している。仮想環境のための互換レイヤーを入れるということはソフトウェア処理に一定程度のオーバーヘッドが発生するため、ADAS(先進運転支援システム)のうちマイクロ秒の応答が必要な制御領域やパワートレインには適していないだろう。
ただし、AIアプリケーションについては必ずしもリアルタイム制御が求められるわけではないので、VirtIOの対象にできるのではないか。実際に、コックピット関連のシステムでいろいろと試しているところだ。
MONOist 構想を提案した2018年から自動車メーカーが積極的に検討するまで約7年かかりました。現在どのような手応えを感じていますか。
水山氏 仮想ハードウェアで開発すべきだという方向性が浸透してきたのはこの2年くらいだろうか。自動車で扱うソフトウェアの規模がどんどんと大きくなり、それらを車種やクルマの世代を超えて適用するには従来のハードウェアファーストのアプローチでは対応が難しくなってきた。そこで、ソフトウェアファーストの考え方に基づく仮想ハードウェアによる開発に賛同してもらえるようになった。
クルマの世代を超えてソフトウェアを進化させるという意味では、1世代を4年として3世代分の12年間くらいは、ユーザーからソフトウェアをアップデートできることを期待されるはずだ。もし各世代で互換性がないとすれば、ソフトウェアアップデートと言っても古い世代のクルマはメンテナンスリリースだけになり、新しい進化が起こらないことになる。そういったことを危惧して、2018年から提案してきたことがついに浸透しつつある。
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