樹脂と解析の知見を外へ あらゆる設計課題に寄り添う旭化成のCAEサービスとはCAE最前線(2/4 ページ)

» 2025年06月20日 06時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

トポロジー最適化を活用した設計の必要性

 トポロジー最適化を活用した樹脂部品の設計に注力する背景には、モノづくりの現場が直面する設計課題の複雑化があるという。

 近年、最終製品に求められる性能が高度化する中で、それを構成する各部品にも同様に高い機能性が求められている。設計者は、強度、剛性、軽量化、コスト、耐久性、加工性といった多くの設計要件を同時に満たす必要があるが、限られた時間とリソースの中で最適解を導き出すことは容易ではない。そのため、多くの現場では「本当はもっと良い形状があるかもしれない」と感じつつも、十分に設計を追い込み切れないというジレンマを抱えている。

旭化成 マテリアル新事業開発センター サステナブルポリマー研究所 CAE技術開発部 CAEグループの高村兼司氏 旭化成 マテリアル新事業開発センター サステナブルポリマー研究所 CAE技術開発部 CAEグループの高村兼司氏

 「こうした状況に対して、われわれが豊富な知見を有するトポロジー最適化の技術が、現場の困りごとの解決に役立つのではないかと考え、CAEサービスの中でも特に今力を入れている」と高村氏は説明する。

 加えて、もう1つの重要な背景として、サステナビリティへの対応があるという。

 持続可能な社会の実現が企業に求められる中、トポロジー最適化は材料使用量を最小限に抑えつつ、必要な性能を確保する設計を実現できる技術だ。これは、原材料の消費削減だけでなく、製造プロセスにおけるCO2排出量の低減にも寄与するものであり、環境負荷の軽減という観点からも大きな意義を持つ。

 トポロジー最適化とは、端的にいえば、あらかじめ定められた設計空間内において、どのように材料を配置すれば構造的に最も効率的かを導き出す技術である。コンピュータ上で密度分布を解析し、荷重条件や境界条件を考慮した上で、強度や剛性を確保しつつ、材料使用量を抑えた最適形状を生成する。

 このように、トポロジー最適化は極めて自由度の高い設計支援が可能な技術であるが、実際の設計現場、特に樹脂部品の設計を担う設計者の間での活用は、まだ十分に進んでいない。こうした実情について、高村氏は「3Dプリンタを活用した先進的な研究開発の現場を除けば、トポロジー最適化が日常的に活用されている設計現場は少ない」と指摘する。

トポロジー最適化の活用を妨げる3つのハードル

 トポロジー最適化の活用を妨げている理由は3つあるという。

 1つ目は、環境構築だ。トポロジー最適化を実施するには、対応する解析ソフトウェアが必要となるだけでなく、大規模な最適化計算を高速に実行できる計算リソースを備えたハードウェア環境も求められる。社内に十分な解析環境を持たない設計現場にとっては、導入/運用のコストが大きな障壁となる。

 2つ目は、ソフトウェアを使いこなすためのノウハウだ。仮にトポロジー最適化のための解析ソフトウェアや環境を用意できたとしても、それを適切に扱うためのスキルと経験が必要だ。トポロジー最適化は、解析条件の設定次第で結果が大きく変わるため、適切な入力や制約条件の理解がなければ、有効な結果を得ることは難しい。CAEに対する知識や経験が不十分な設計者にとっては、扱いの難しい技術といえる。

 そして、3つ目は、トポロジー最適化の結果から、製造可能な形状へと変換するプロセスである。「ここが最大のハードルになっている」と高村氏。トポロジー最適化によって導き出される形状は、しばしば「この形状は本当に作れるのか?」と感じさせる形状になることも珍しくない。特に、射出成形のような量産を前提とする製造方法では、解析結果だけでなく、樹脂加工の知見や成形の制約条件を踏まえた設計判断が必要になる。いわば、“設計から製造への橋渡し”ができなければ、トポロジー最適化は机上の空論にとどまってしまう。

トポロジー最適化の難しさと、CAEサービスでの流れ トポロジー最適化の難しさと、CAEサービスでの流れ[クリックで拡大] 出所:旭化成

 旭化成では、約10年前からトポロジー最適化を部品設計に取り入れる活動を進めてきた実績がある。そうした背景から、同社にはトポロジー最適化に関する豊富な知見が蓄積されている。

 加えて、樹脂メーカーとしての強みである、材料特性や成形性に関する深い知識やノウハウも有しており、これらの知見を掛け合わせることで、軽く、強く、かつ実際に製造可能な形状を設計できる点が、旭化成ならではの差別化要素となっている。

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