生成AIへの期待と活用効果の乖離(かいり)については、日本が「期待を大きく上回っている」が9%、「期待通りの成果があった」が48%となった。一方で、米国では「期待を大きく上回っている」が33%、「期待通りの結果があった」が55%となり、期待以上の成果が得られたとする回答者の合計が日本よりも24%高かった。米国では具体的に期待値を上回ったユースケースとして、画像/音声生成やプログラム開発/新規ビジネスの支援を挙げる企業が多く見られた。
生成AIの活用効果と導入部署について尋ねたところ、日本では導入効果が期待通りではなかった企業も、期待を大きく上回った企業でも、全社活用の割合が非常に大きいという特徴が見られた。PwCコンサルティング シニアマネージャーの上野大地氏は「IT部門が中心となって生成AI活用のCoEを組成して全社共通の活用基盤を整備した後、事業部門が個別のユースケースを進めるという傾向が見て取れる」と指摘した。
一方で、米国は全社活用の割合が低く、各事業部門を導入先に挙げる割合が高かった。上野氏は「全社的な共通基盤の整備に先立ち、営業やマーケティング、バックオフィスがそれぞれ業務に特化した生成AI活用を進んでいくという傾向が見える」と説明する。
なお、生成AI活用が期待以上の成果を出せた理由についての質問では、日米ともに「ユースケース設定」を挙げる回答者が多く、その他「データ品質」「開発/利用環境、利活用フローの整備」などが上位に挙がった点も共通していた。
調査では企業のガバナンス対応に関する認識や整備状況についても尋ねた。日米ともに、事業部門や管理部門で構成された中央組織の整備が進んでいる企業では、生成AIの導入で期待以上の効果を得られたとする企業が多い傾向にあった。
ただ、生成AI活用に対する具体的な対応策については、「実施していない」という回答が日本では20%であったのに対して、米国では3%程度にとどまるといった差が見られた。上野氏は「米国では生成AIを外部向けに活用する企業があり、リスク、カバナンス対策の整備は必須になっている。このため、実施していないという層はほとんど見られない」と指摘した。
この他、生成AIの導入効果を見るための指標についても質問した。日米ともに「社員の生産性」を挙げる回答が最多だった。しかし、日本では「工数/コスト」がこれに続くのに対して、米国では「顧客満足度」が多かった。また、日本では生成AI導入で生じた効果の還元先として「従業員の雇用時間への還元」を挙げる回答が多かったが、米国では「新規事業への登用など、新たな投資に回す」が最多となった。「米国では生成AIを工数/工数削減ではなく、成長の新たな原動力として意識しているのではないか」(上野氏)。
以上の調査結果を紹介した上で、米国と比較した日本の生成AI活用の現状について、上野氏は「生成AIの活用フェーズが検証段階で止まっていて、実装以降のフェーズに至っていない企業が多い。技術検証などはグローバルでも先行して取り組み、初動は早かった。だが具体的なリスク対策が進まず、何が起こるか分からないから使うのを控える、という保守的な企業文化が実装フェーズ以降に進む際の障害になっているのではないか」と総括した。
また、日本企業ではリスク/ガバナンス対策もポリシー策定レベルのものにとどまっており、ユースケースごとの具体的な対応策には踏み込めていない傾向にある。さらに、こうした対策が未整備のため、発生リスクが比較的少ない既存の業務効率化やコスト削減に生成AIの用途が集中している可能性もある。「生成AIの登場を、日本が再びイノベーティブな国に復帰するチャンスとして捉える向きもある。だが、生成AI登場以前のAI活用で言われていたことと同様の傾向、課題が顕在化しているようにも見える」(上野氏)。
一方で、米国ではリスク対策を講じたうえで生成AIを顧客満足度向上に活用することで、企業の競争優位性や差別化につなげている様子がうかがえる。これらを踏まえて上野氏は日本企業に求められる3つの変化を提案した。
1つ目は既存のやり方を変え、新しいアイデアを出すことに意欲的な人材への、ある程度の権限委譲や予算配分を促進することだ。2つ目は間違いやリスクを許容できない企業文化から脱却し、リスクに対する具体的対策の整備を進め、新たな顧客サービス創出に取り組むことだ。そして3つ目は、マネジメント層の業務の高付加価値化の推進である。
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