直近のオリンパスのMSA部門の活動としては、前立腺肥大症(BPH)の症状改善に有効な低侵襲治療デバイス「iTind」に関する事例がある。オリンパスが2021年に、このiTindを手掛けるMedi-Tateを買収したのに併せて、iTindによる治療に関わるメディケア/メディケイド支払額の大幅な引き上げや、米国泌尿器学会によるガイドラインの発表、民間保険会社によるiTindの保険適用拡大などを、事業部門との連携によって実現してきたという。
チェペル氏は、オリンパス入社から約10週間をかけて、5つの地域のMSA部門を訪問し、現状確認を行った。そこから今まで重点的に進めてきたのが、MSA部門における個別の活動がオリンパスの事業にどのようなインパクトを与えているのかを評価するための指標や仕組みの構築である。「MSA部門はそれぞれ献身的に業務を行っているが、事業に対して生み出した価値のインパクトを具体的に確認できていなかった。このため、事業部門から適正な評価がなされていなかったのではないか。オリンパス社内で最も歴史が浅いMSA部門だが、本来は患者を意識すべきにも関わらず内向きになっている側面が強かった。着任から半年を経てMSA部門の成熟が進んでおり、外向きに仕事ができるようになっていると思う」(同氏)という。
また、医療機器メーカーであるオリンパスにとって、FDA(米国食品医薬品局)をはじめ各国当局の規制への対応も重要である。AI(人工知能)技術をはじめ医療機器は進化しており、これと併せて規制対応も複雑になっている。チェペル氏は「規制対応の観点からも、MSA部門は製品開発やM&Aについて早期の段階から関わっておく必要がある。これまでは関わりは浅かったが、規制に対応するだけでなく、AIをはじめとする高度な先進技術を取り入れる際に高いレベルで均一に効果を発揮させ、最終的に患者のアウトカムの改善につなげるには必要なことだ」と強調する。
現在、チェペル氏は2カ月に1回、2週間ほど日本に滞在して本社や日本のMSA部門で業務を行っている。同氏は「日本には優秀な技術者と製造部門があり、かれらなくして今のオリンパスが成立しなかったであろうことはよく理解できた。今後は、その優位性の基になった日本の知見やノウハウを外に広げていくことだろう。現在、日本市場の売上高比率は15%でありグローバルカンパニーとなってきている以上、日本の企業ではあっても残り85%を占める海外のニーズをしっかり理解していかなければならない」と説明する。
なお、現在世界で約400人のMSA部門だが、大幅な人員増強は行う予定はないものの、フルタイムの医療従事者を数人加えていく方針である。チェペル氏は、自身が現役の医師であることを重視しており「臨床現場から離れていないことが重要だ。そういう視点の人員を追加していきたい」と述べている。
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