かわいい顔してプロ並みの強さ、中国発AI囲碁ロボット「SenseRobot GO」の実力はロボット開発クローズアップ(2/3 ページ)

» 2024年02月29日 07時00分 公開
[松永弥生MONOist]

「SenseRobot GO」は家庭用AIロボットの業界発展に向けた初手

 読者の皆さんは、10年前に将棋のプロ棋士とロボットが対局する「将棋電王戦」が開催されていたことをご存じだろうか? この時は産業用ロボットアームが、外部に接続されたコンピュータから指示された手を指していた。

 あの当時は「将棋より盤面が広く手数も多い囲碁では、コンピュータがプロに勝てるようになるのはまだ時間がかかるだろう」と予測されていた。しかし、AI囲碁研究は急速に進み、2016年にはプロのトップ棋士にも勝利するようになった。

「SenseRobot GO」開発の背景

SenseRobot Japanの崔嘉銘氏 SenseRobot Japanの崔嘉銘氏 出所:センスロボット

 そして、現在。“家庭用”AI囲碁ロボット「SenseRobot GO」の登場だ。今回、SenseRobot GOの開発を担当したSenseRobot Japan 製品開発責任者の崔嘉銘(サイ・カメイ)氏に話を伺う機会を得たので以下に紹介しよう。

 家庭用スマートロボットブランドであるセンスロボットは、AI分野で長年にわたる技術経験を積んでおり、AI技術を用いた家庭用ロボット業界の発展を推進したいと考えているそうだ。崔氏は「SenseRobot GOは、そのための最初のシナリオにすぎません」と語る。

 今回、日本の囲碁愛好家向けにカスタマイズされたSenseRobot GOを発売し、日本の囲碁文化の発展に寄与したいと考えているという。

 センスロボットは、ロボットアームを小型化、安全化、低コスト化することに努め、同時に工業用ロボットアームと同等の動作精度を実現することに挑戦した。開発チームは、20カ月に9回のバージョンアップを行い、家庭用囲碁ロボットの開発にたどり着いた。

 SenseRobot GOの自由度は、肩、肘、手(上下と回転)の4軸になる。人と対局するに当たり、ロボットアームの安全設計には細心の注意が払われている。「先進的なAIビジョン技術と工業級ロボットアーム技術を通じて、消費者製品である家庭用安全保証を実現しました」(崔氏)。

 具体的には、AIビジョンシステムで遮蔽(しゃへい)物と潜在的な衝突を検出し、ロボットアームにはタッチセンサーシステムが搭載されている。ロボットアームが動いている際に人がロボットアームに触れて動きが阻害された場合、ロボットアームは停止し、人の動きに対抗して動くことはないそうだ。また、ロボットアームは軽量に設計されており、誤って手を挟むことはなく、子どもなどのユーザーの安全を効果的に保護できるという。

 筆者は、動いているアームに手を当ててみたが、挟まれる心配はなかった。ボディーやアームの外装が丸みを帯びたフォルムになっているのも安全設計の表れだろう。

「SenseRobot GO」の“手”の開発には苦労も

 SenseRobot GOの“手”は磁気吸着方式を採用している。碁石には鉄が入っており、掌の電磁石のオン/オフで、碁石をつまみ上げたり着手したりしているのだ。そう聞くと簡単な気がしてしまうが、実装にはかなり苦労したそうだ。

 碁石は碁笥(ゴケ:碁石の容器)の中で乱雑に積み上がっている。そこで、SenseRobot GOは、最初に碁石の平面中央部に対して手が垂直方向にアプローチする石取りを試し、これが困難な場合には斜め方向での石取りを行う。前のページの動画をよく見ると、ロボットが2つ目につかんだ白石は、碁石の中央部ではなく少し端側を使って吸着しているのが分かるだろう。

 このように偏った持ち方をした時も、垂直動作で上に持ち上げた時に補正を行ってから、誤差1mmで正確に基盤に着手できるようにしている。

「SenseRobot GO」専用の碁笥と碁石 「SenseRobot GO」専用の碁笥と碁石[クリックで拡大]

 碁盤上にある碁石は、碁笥の中とは違って全て碁盤に対して平面部で接地して並んでいるので、ロボットの手で取り上げるのは簡単だろうと思えるが、実際はそうではないらしい。SenseRobot GOは、頭上の単眼カメラで盤上の石を検知している。あらゆる照明環境の下、単眼カメラで碁盤上の石を見分けて取り上げるのは、非常に難しいそうだ。

 そこで、視覚アルゴリズムの最適化を行い、同時にロボットアームの構造を強化してセンサーの数を増やし、さまざまな戦略を採用して、リアル環境でのより高い制御精度を実現しているという。

 また、SenseRobot GOはロボットアームに独特の回転式石取りメカニズムを採用しており、1度に最大5個の碁石を連続して取ることができる。この機能により、人間との対局をよりスムーズで効率的にしている。

 碁石を扱うのには、精度とスピードが目標になるが、これらは相反する要素だ。同社は、既存のソフトウェアとハードウェアのコストを基に、総合的に両者のバランスをとっているという。

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