経営の上流での意思決定(受注可否判断など)では、「この案件は、○○くらいの利益を出せそうなので受注させてください」という答申に対して経営者がGoをかける。人材や金型、治具、時には設備を用いた投資判断をしているもので、将来の利益を増やす/減らすが決まる重要な判断だ。であれば、その意思決定に対して「この案件はもうかった/もうからなかった」という振り返りと、次に生かす反省/分析をする必要がある。
しかし、これができている会社はどのくらいあるだろうか? 近年は、従来のモノづくりから保守/サービスでもうける時代にシフトしている。だから案件の本体自体は多少薄利でもいい、場合によっては赤字でもいい、と割り切る企業もある。「案件Aは本体は赤字だが、保守/サービスで3年後黒字化出来ます。ぜひ受注しましょう!」と受注するということだ。だがその結果、本当に3年以内に黒字化できたかを数字で管理、確認できている企業は少ない。
図3にあるように、多くの企業では期間損益(縦の損益)はERPパッケージなどを利用して見える化できている。しかし、プロダクト損益(横の損益)を見える化するための適切な投資をしている企業は多くない。前述の「保守/サービス含めて、この案件は3年後黒字化します」といったケースは、まさしくこのプロダクト損益で見ていく必要があるのにだ。
これはPLMの取り組みで実現させなければならない。PLMはCADデータ管理やBOM管理などマニアックで経営管理と懸け離れた議論ばかりなされる。このため、経営者の関心が薄れてしまい、自分ごととは思えず、その結果、PLMへの適切な投資判断がなされないことになる。
筆者は、PLMシステムとはなにか? と問われた時に、「プロダクト損益を実現させる経営管理システム」と迷わず答えている。もしこれが、「3DCADからCADやBOMを生成し、そこからE-BOM(設計部品表)/S-BOM(ソフトウェア部品表)を出力する。BOPを使ってM-BOM(製造部品表)を生成し、ERPと連携しつつ、BOPとMESを連動させて、生産管理のスケジューラーを動かす」と事細かに語ったとしたら、どうなるだろうか。
経営者の関心があるのは経営や会計の領域だ。機能面から見たPLMの詳細な説明を聞いても、経営者にとっては“宇宙語”にしか思えないのである。しかしPLMを詳しく語ろうとすればするほど、より難解な“宇宙語”にならざるを得ない。すると、経営者はより聞きたくなくなってしまうだろう。
筆者はこれこそが、経営者がPLMに関心をもてず、適切な投資をしなくなる諸悪の根源だと思っている。逆に言うと、経営者がよく投資するERPは、分かりやすい会計の仕組みをもたらしてくれる。つまり、「決算を早期化する」「事業部別B/S、P/L、C/Fを出す」「IFRS対応する」「精緻な実際原価を計算させる」などと説明できる。
これは経営者にとって関心の高いキーワードだし、これを実現させないと経営者自身が株主から怒られる。投資対効果など関係なく、取り組まざるを得ないテーマになるのだ。それと同じように、PLMも経営管理や会計の仕組みと位置付けることで、経営者に関心をもち、適切な投資をおこない、責任を果たしてもらう必要があるのだ。
このようにして、ERP(期間損益)とPLM(プロダクト損益)の両輪を生かし、振り返りと反省を行える経営基盤の構築を目指してもらいたい(図4)。
株式会社プリベクト
北山一真(きたやまかずま)
IT系コンサルティング会社、製造業系コンサルティング会社ディレクターを経て、プリベクトを設立。競争力ある製品/もうかる製品の実現のため、設計と原価の融合をコンセプトにした企業変革に取り組む。業務改革の企画/実行、IT導入まで一気通貫で企業変革の実現を支援。プロフィタブルデザイン、設計高度化、設計ナレッジマネジメント、製品開発マネジメント、原価企画、原価見積、開発購買、ライフサイクルコスティング、意思決定管理会計、BOM、PDM、PLMなどのコンサルティングを手掛ける。
著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)、『赤字製品をやめたら、もっと赤字が増えた!-儲かる製品を実現するコストマネジメント-』(日刊工業新聞社)、『プロフィタブル・デザインiPhoneがもうかる本当の理由』(日経BP社)他多数執筆。
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